あ、コスプレ?

 

今日は嫌にいい天気だなぁと呟き、空を見上げた事が悪かったのか。
青空の中、小さな黒い点を見つけた。
まるで青いキャンパスに墨を落としたようなそれ。
鳥かと思ったが、あんな高所を飛ぶだろうか。
縁に両腕を預け空を仰いだまま一点を見つめていれば、
徐々に大きくなっているような気がしてきた。
そんなわけがねぇだろよぃ。目を凝らしもう一度見つめる。


「……あん?」


やはり大きくなっちゃいねぇか?
何故だか目を離せず、じっと見つめていれば
だんだんと形は増し、鳥ではないと確信する。


「ちょっ…」


あれだけの高さから落下しているのだから、
ぶつかれば相当な衝撃を伴うはずだ。
そうして、それは今、正にマルコめがけて落下しているらしい。
辺りを見回せどまだ誰一人気づいてはいない。
おいおい、何だよこの展開は。
一人狼狽えている場合ではない。
あんなスピードで落下されたらば
船底に大きな穴が空いてしまう。勘弁してくれよぃ…。
ポリポリと頭をかき、両腕に力を入れる。
青白い炎を全身から発し落下物を待ち構えれば、
ようやく周りもこの異常な事態に気付いたらしい。
皆、一様に空を仰ぎ何だありゃあ、等と間抜けな声を上げている。
空島からの落とし物だろうか。何れにしても迷惑な展開には違いない。


「落とすんじゃねぇぞ、マルコ!」
「誰に向かって口ぃ利いてんだよぃ」


それは的確に落ちてきた。
まるでマルコの腕に抱かれる事を想定していたかのようだ。
両腕に想像以上の重力がかかり、マルコの身体から覇気が発される。


「おい、マルコ!お宝か!?」
「……いや、こりゃあ」


青白い炎が姿を消し、皆がマルコの側に近づいてきた。
その両腕に抱かれたものを確認する為にだ。


「……女!?」
「酒臭ぇ女だよぃ」


マルコの腕の中、あれだけの衝撃を伴い落下した癖に、
未だぐっすりと眠っている女からは
強いアルコールの匂いがしている。派手な女だ。


「そりゃ、お前へのプレゼントじゃねぇのか?」
「願い下げだぜ、俺ぁ」
「変わった恰好の女だな」


海賊故、色んな場所へ行きはするが確かにこの女は異質な感じがする。
身体の線が丸分かりの服装はよく見るが、商売女のそれとは又、違う。
丈の異様に短いスカートから伸びた足。どんな罠だ。


「……ん」


女が小さな声を上げ、無理矢理に寝返りを打とうとした。
まあ、マルコにぶつかる。


「何……?眩し……」


眉間に深い皺を刻み、女が目覚める。
マルコの胸元に酒臭い息を吹き掛けながらだ。緊張が走る。


「……あれ?あんた」


マルコの腕に抱かれた女はじっと見つめて来る。
酔いから覚めていない、淀んだ眼差しで。


「超マルコなんですけど」
「!?」
「ははっ、超うけるんだけど!ねぇ、あんた似てるって言われない?」


女は笑いながらそう言い、マルコの顔を遠慮もなしに触る。
暫し呆気に取られていたが、ふと我に返りふざけるんじゃねぇと言えども同じだ。
往々にして酔っ払った女は性質が悪いと決まっているのだ。


「何なんだよぃ、手間は!!」
「ちょっとちょっと!語尾まで一緒って、狙ってんの?あ、コスプレ?
「訳の分からねぇ事を……」


気安く触るんじゃねぇと言えども、この女には伝わっていないようで、
正直なところ持て余していたのだ。
どうしたらいいのか、そればかりを考えていれば何の前触れもなしに
女が又、眠ってしまったのだから、本当にふざけるんじゃねぇよぃと呟いた。


まだ名前は変換出来ない有様。