《×》って何……?

 

……いや、そうじゃねえって、ちょっと待てって
お前、何か勘違いしてるだけだって!そんな訳ねぇじゃん、
只の知り合いって言うか、俺も騙されたんだって!
マジで、ちょっとだけでいいから話を聞けって―――――!?!!


「うるさい!!」
「そりゃあ、お前だよぃ」


まったく最悪な目覚めもあったもので、
直前まで見ていた夢は昨晩の忠実な再現。
事細かに台詞を覚えている辺り、
我ながらよほどショックだったとみえる。乱飲の理由だ。
あの男、どの面下げてあんな言葉を口走りやがったんだ……。


「うるさいのはお前って、あんたねぇ……」
「寝ても覚めてもうるせぇ女だな」
「……はっ?」
「名前はっつーんだろよぃ、お前」
「えぇっと……夢の中で目覚めるのって何だったっけ?
何とかって言って……」
「まぁだ寝惚けてんのかよぃ」
意味が分からない。あたし、どんだけ目覚めないつもり!?
そりゃ、確かに今現在、あたしのリアルは絶賛修羅場中だけど、
いやいや、どんだけ逃げてんの?もしかして!トラウマ的な…?
知らない内にすんげぇ傷ついてます的な?繊細か!あたし繊細か!
そんな事よりも今、何時よ!?仕事は!?


「お前が寝てる間に荷物を調べさせてもらったよぃ」
(夢が話し始めてる…)
「妙なモノしか入ってねぇな。なぁ、お前は何者だよぃ」
(何者って……いや、何者って……)
「あんたこそ何者よー!?
すげぇマルコに似てる何か!?それともマルコ!?」
「そうだよぃ」
「肯定!?いや、いやもうそういう事じゃなくて、そうじゃないよね!?
夢醒めないなぁ今日は!!えぇ?えぇ?何なの!?」
「何をそんなに興奮してんだよぃ」
「ちょっ……!」


どうやらあたしはベッドに寝かされていたらしい。
そんなあたしの右隣にマルコは位置しているわけで、
ベッドには彼が広げたらしいあたしの荷物が散乱していた。
人の荷物をよくもここまで盛大に撒き散らかしてくれたもんよ……流石、海賊。
マルコ(の様な人、若しくは夢)があたしの名前を知っているのは、
彼の手中に収められたあたしの運転免許証の仕業だろうし、
ていうか臆する事なく他人の財布を開けるお前に、
賞賛の言葉を送りたいくらいなんですけど……。
普通、少しくらい躊躇してもよくない!?
まあ、大した額は入ってませんけど!


「急に忙しいやつだな……!」
「携帯!あたしの携帯取って!」
「……けいたい?」
「携帯!携帯電話!」
「何を言ってんだよぃ」
「それはお前だ!!」


思わず突っ込んでしまった、というか突っ込まざるを得なかった。
飛び付く勢いで携帯を掴み、開く。
……えぇ~っと……。いや、あの……。
何、この電波の状態。表示……。
《×》って何……?
《圏外》でもないわけ?え?えっ?
混乱しながら手当たり次第に発信してみるも、
当然ながら発信音さえ鳴りやしねえ。


「……何やってんだよぃ」
「で、電話……」


互いに見つめ合い無言の空間が広がる。
いや、ちょっと待って。まったく意味が分からない。
ここ、どこ?ていうか、夢なの?それとも現実なの?
若しくは頭がおかしくなったの?


「あの……ここは、どこなんでしょうか……」
「ここって」
「えっと……あの、今、現在あたしがいる場所の事ですけど……」
「モビーディック号の中だよぃ」


平然とした顔でそう言いのけたマルコを見つめ、
徐に頬を叩いてみたけれど普通に痛い。 う~ん、これは……。


「そちらは、一番隊隊長のマルコ…さんでらっしゃいます?」
「さっきから何回もそう言ってるだろよぃ」
「……これって、現実なんでしょうか……」


理解出来ないまでも小さな声でそう問えば、
意味が分からないといった顔を引っ提げたマルコ(ほぼ確定?)
は落下の衝撃で頭がおかしくなったのかと逆に聞き返す。
アウトー。あたし(色んな意味で)アウトー。


ようやく名前が変換出来ました!