ねぇ、どこかでファンデーション、買えますか?

 

「いえ、あの決して怪しい者ではないんですけど、
いや確かに怪しいだろうけど、何?害はないって見て分かるでしょ?
こんな細腕で危害を加える事なんて出来ないし、
ていうかさぁ、これ本当に夢じゃないの?」


あらたまり正座をしている理由こそ明白ではないけれど、
何だか畏まらなければならないような気がしただけです。
すっかり酔いも覚め、喉が異様に乾いてはいるけど
(シャワー浴びたいとか言ったら殺されるかな)
まずはこの身の潔白(何に対してかは分からないけど)を証明しなければならない。
普通に考えて、相手は海賊なわけだし、
マルコかどうかは分からないけど、そして実際マルコだったとして、
彼の人となりなんてあたしよく知らないんだけど……。


「で、お前はどこから来たんだよぃ」
「えっ?あの……」


何故だか現住所を丁寧に説明する。
マルコの?(はてな)顔!
あれ?あたし、何かおかしい事、言った?


「まったく、意味が分からねぇよぃ、お前は」
「(……どうして言葉は通じてるんだろう……)」
「正気かどうかを確認しようと思ったが、
違えちゃいねぇみてぇだし、まぁ、害はなさそうだが」
「正気かどうかって……(むしろこちらがお伺いしたい位ですけど)」


そもそも、ここが白ひげ海賊団だったとして、あたしはどうしたらいいのか。
リクルート?海賊に?能力者でもない割に泳げもしないのに?
えっ?辛うじて雑用?……あたし、生活に基づいた雑務とか出来るの?
……捕虜?何の……?う~ん、最悪……処……


「お前の扱いは親父が決めるよぃ」
「エスパー!?」
「顔、見てりゃあ何考えてるかなんて大体分かるだろよぃ」
「分かんなくないかな」
「まぁ、そういう事だ。
もうしばらくしたら親父の所に連れて行くから、大人しくしてろぃ」


親父って……白ひげ?えっ、マジで?あのスケールのでかさを体感?
未だ現実と認めきれてはいないけど何となく想像する。
う~ん。想像の範疇を超えた。


「今更どうこう考えたところで、どうしようもねぇだろよぃ」
「……あの」
「何だよぃ」
「着替え、貸してもらえます?」
「……」


少しの間、妙な間があき、 片眉を上げたマルコは
ちょっと待ってろと言い、部屋を出て行った。
いや、確かに空気は読めてなかったかも知れないけど(多分そうだけど)
この恰好ではゆっくり出来ないし、やっぱりシャワーを浴びたい……
っていうか化粧品は?慌ててバックを漁れば化粧ポーチ発見。安堵。
も束の間、ファンデーションが割れていて
(……本当に落ちて来たの?あたし……)崩れ落ちた。
ねぇ、どこかでファンデーション、買えますか?









……何だあの女……。突然畏まったと思いきや、
着替えを要求する辺り、肝が座っているのか馬鹿なのか。
確かにあいつの出で立ちじゃ、こんな海賊船でろくに
うろつけやしねぇだろうが(何だあの無駄な露出)
だったらハナからあんな恰好をするんじゃねぇって話だよぃ。
さっきも話してる最中、馬鹿みたいに短いスカートから下着がちらつき、
大層動じた、なんてのは誰にも言えやしねぇが。
親父がどういう答えを出すのかは分からねぇが、あの様子じゃ悪い様にはしねぇだろう。
そもそもあいつは何なんだ?何で空から落ちてきた?
どうして言ってる事の一割も理解出来ねぇ?そもそも、言うに事欠いて夢って何だよぃ。
もう少し他に言い訳の仕様もあったろうよぃ……。


「お、マルコ。どうだった?あの女」
「どうもこうも―――――あぁ、女もんの服、ねぇかよぃ」
「女もんの服?」
「あんな恰好じゃ、目の毒だろよぃ」
「別に俺らは構いわねぇけどな。むしろ―――――」
「あいつが欲しいって言ってんだよぃ」
「あの女が!?」
「小柄なやつの服でも構わねぇ、とにかく、探してみてくれ」
「探すのは構わねぇが、大したタマだな、あの女……」
「訳の分からねぇ女だよぃ」


言い表す言葉がそれしかないのだから仕方がない。
どこかで盗った荷の中に女物の服があればいいが、
金にならないものは大概捨てている。恐らくないだろう。
どうしてあいつは、あんなにヒラヒラした服を着てるんだと憤っていれば、
顔を見せる奴等がどいつもこいつも口を揃え、
あの女の事を聞いてくるものだから、余計に腹がたった。

マルコを喋らせ過ぎれば、
誰だかわからなくなるという事実