犬も喰わねぇな、こいつは!

 

※少し時系列がずれてますが気にしないで頂きたい。




何か知らねぇが今朝からの態度がおかしい。
あいつがおかしいのは今に始まった事じゃねぇし、
言わせてもらえば常におかしいわけで、
まぁ気にする必要性もねぇんだが、いや。
まず何がおかしいって、あいつが俺よりも先に
身支度を整えて甲板に出ている点からどう考えてもおかしいだろよぃ。
普段のあいつなら、起こされるまで絶対起きやしねぇはずだし、
万一起きてたとしても甲板になんかいねぇはずだ。
日に焼けるだの、紫外線がどうのだの、
ワケの分からねぇ事を言いながら出ねぇはずだ。


最初は俺も、ようやくこいつも素直に(まともに)なって、
鍛錬をする気になったのかと思い
(まったく、馬鹿な勘違いをしたもんだ)あいつに近づけばだ。
あの馬鹿、こっちに視線を寄越したかと思えば
気づいてない振りをしやがって、挙げ句の果てにゃ逃走を図るたぁ、
一体全体どういう了見だよぃ……。
挨拶一つなしに、今朝から一言も交わさず、
俺が近づけば、まったく露骨に避けるもんだから、
とうとう手を付けられたか、
だとか妙な勘繰りを入れられるんだよぃ!いい迷惑だぜ……。
こんな調子だから今日は鍛錬も出来ず、
何か俺があいつを追いかけてるだけの1日になってるし、何だこれ。
こんなに不本意な日はこれまで生きてきて、
初めてだよぃ……。


「おい!おい、!!手前、いい加減にしろぃ!」
「……!」
「よりにもよって、隊長をシカトするたぁ、一体どういう了見だよぃ!」
「そりゃあ、お前が無理矢理、手込めにでもしたんじゃあねぇのかマルコ!」
「違いねぇ!」
犬も喰わねぇな、こいつは!


外野は気楽なもんだよぃ。
どいつもこいつも、ものの見事に好き勝手な事を言いやがる。


「見ろぃ!妙な勘繰りが始まっちまっただろがよぃ!」
「……!」


早歩きが小走りになり、途中から駆け足になった。
まぁ何れにしてもあいつが俺に勝てるわけもねぇ。
勝てるとすりゃあ、あの身勝手さくれぇだ。
いよいよどうにもならねぇと判断し、腕を伸ば右手首を掴まえた。


「……!」
「なっ」
「…………!!」


唐突に船内を駆け巡ったこいつの叫び声は親父の耳にも届いたと思うよぃ。
ある種、何かの攻撃なのかとも思えるほどの声量……。


「うるせ……!」
「……!」


ジンジンと痛む鼓膜を庇い、うるせぇと言いかけた途端、
振り向いたこいつの顔が妙に赤く、思わず言葉を飲み込んだ。
俺が戸惑っていれば手を振り払い自室へ向かうの背中を見送りながら、
暫し呆然としていれば、の顔を見たであろうクルーが
したり顔で近づいて来るものだから、慌ててを追いかけた。









……変な夢を見た。
いや、もう死にたくなるくらい変な夢だったわけで、
まあそんな夢を見たからマルコを完無視してるわけなんですが。
まあ、彼は何もしていないよね。
何一つ悪くはないよね。分かっているよね。


ちょっと待って。ここに来てどのくらい経過した?
実感もないし、暇を持て余しもしないから考えた事がなかった。
三ヶ月くらい経過してるんじゃない?
時間に縛られる人達じゃないから、曜日の概念なんてないし、
そんな環境にものの見事染まってしまったあたしもあたしか。


けど、何で…?何であんな夢を見たの?
どうしたの?欲求不満なの?
ていうか、何でマルコあんなにしつこいの?
あそこまで露骨に無視されたんなら怒るなり何なり、
いやそれよりも放っておけばよくない…?
そういうところが妙に真面目なんだよね。


三ヶ月、三ヶ月か…。
いや、そう考えたら仕方がないのかな。
どういう風に自分自身を正当化する?出来るの?
いや、ここはしなきゃ。無理矢理にでもしなきゃ駄目よあたし。
そうしなきゃマルコの顔、二度と見る事が出来なくなるよ本当。
こんなに八つ当たりって類を見ないよね…。


「おい!おい、!!」
「(あっれー?全然空気読めてない!)」
「何なんだよぃ!!」


マルコとやってる夢を見たんだよね。
がっつりやってたよね。
むしろ、あたし物凄く積極的だったよね。
そんなもん、目覚めて声も出ないわ。
あの感触?何?空気感も、感触も、何か全てがやけにリアルで、
ええー?あたし、そんな願望あったの?みたいな。


いや、確かにマルコの事は以前から好きだったけど、
何かいざ生活を共にしたり、こう、
目の当たりにしたらそんなんじゃないっていうか、
だって幾ら格好いいとか同僚に思ってても、
何もなしに手を出すだとか、そういった事ってあんまりないでしょう?
あれ?あたし、誰に対して言い訳をしているの?


「お前、何を企んでやがる!」
「(どんな勘違い!?)」
「いいから、大人しく開けろぃ!!」
「(コレ、ドア壊されるんじゃない…?)」


確かに、三ヶ月はやっておりませんが、
そんな性欲強くなかったはずだし、ええ?ええー?何で?
あたし、マルコをそんな目で見てるって事?
いや、そんな事よりも、あたし馬鹿だから、
そんな夢見たら―――――


!!」
「うわ!(ドア、こじ開けやがった…)」
「―――――うん?」
「…!!!」


きっとあたしの顔は凄く真っ赤で、
怪訝そうなマルコの表情が印象的だったんですけど、
そもそもこの男はあたしが(確かに私事で申し訳ないんですけど)
悩んでいるだなんて微塵も思っておらず、
何かしらの悪事を企んでいるとでも思っていたんだろう。
熱でもあるのかと腕を伸ばすものだから、思わず大きく後ずさってしまった。
あたしに近寄らないで、なんて事も口にしたかも知れない。


クソ、まさかあたしの方がこんな目に遭わされるだなんて
予想外もいいとこよ!
そんな夢を見ちゃったら、
簡単に好きになる単純な心をどうにかしてやりたい。

下品ですまん