それは告白のテンションとして妥当なの…?

 

なーんか、こういう感じって覚えがあるんだよね。あれはいつ頃の事だったっけ。
確かまだ学生だったような気がするし、ぼんやりとしたイメージしか思い出せないんだけど、
居た堪れないっていうか、どうしていいのか分からないっていうか、
呼吸が苦しくなるっていうか、ご勘弁頂きたいっていうか、要は逃げ出したいわけで、
それなのにドアの前にマルコがいるから身動きが取れない。


ていうか、マルコもマルコで用があるんならさっさと言えばよくない?
既に五分ほど経過してるんですけど…。
しかも、その五分の間、一言も口を利いてないから気まずい事この上ないんだよね。
まあ、それは半ばあたしのせいでもあるんですけど。
いやーしかし、これは本当に気まずいわ。
そもそも、マルコがあたしを(わざわざ担ぎ上げてまで)連れ込んだなんて
(何か誤解を招きそうだけど、そうだよね?)まるで奇跡に近い展開なんですけど、
この度の一連の行動、そんなものの理由とか聞かれた日にはどうしたらいいの?
言えるわけがない…。
お前とほにゃららしている夢を見たから避けてました、だなんて言えるわけがないよね…。
上手い言い回しがないものか…。


でも、これで言い逃れたとしても、こちらの事情は何一つ変わらないわけで、
本末転倒もいいとこっていうか、何の解決にもならないよね?
うわぁー本当面倒臭い、あたし面倒臭い。


「…おい」
「何!?」
「(な、何だよぃ…)」
「(あぁービックリした!)」


息巻いて連れて来はしたもののだ。何て言うんだ、俺…。
お前、俺の事避けてるだろぃ、とか聞くのか…?
いやいや、ちょっと頭の中を整理するか。ああ、そうそう。そうだ。
まずはこの馬鹿の、ここ一週間の態度だな。
あからさまにこの俺を無視したり、奇声を上げたりとかな。
で、それ繋がりで一番隊の規律か。そうだ、そうだよぃ。


「あのなぁ」
「ごめん、わざとシカトしてました。もうしません」
「あ?」
「ごめんね。それじゃあ」
「おい」


クソ、逆切れ気味に謝りながらはける作戦は失敗か…!


「俺ァ、お前のそういう所を話し合いてぇんだよぃ!!」
「ないから、話し合うトコなんてないから!」
「あるんだよぃ!気づけ、山ほどあるだろが!」
「ていうかさ!話し合って解決って、ホラ、別に付き合ってるわけじゃないんだから―――――」


ヤバイ、これは大減点よ…やらかしたわよあたし…。
焦りすぎて自分でも何言ってんのかよく分かんなくなってるんですけど、
まあそういう時って大体、失言かましちゃうよねー。
はい、それまさに今のあたしー。


いや、何?言いたい事はあるわけよ?
付き合ってるわけでもないんだし、そもそもあんたはあたしの上司なわけだから、
命令すりゃよくない?っていう、そう!それを言いたかったわけよ!
それなのにもうマルコ、固まらないでよ!せめて指摘して!
異様に恥ずかしくなってきてるから!いっそ殺して!


居た堪れない空気が濃度を増す中、
魔法にでもかかったように身動きが出来なくなっている。
マルコもあたしも。申し訳ないけど、
この空気を変える方法がからっきし見つからない。
そしてそれはきっとマルコも同じ、はず。


「いっそ付き合っちまえよ」
「ていうかもう付き合ってんだろ、それ」
「!?」


先の見えない空気を勢いよくぶっ壊してくれたのは
僅かに開いたドアの隙間からこちらを伺っているエースとサッチで、
恐らく最初から見ていたんだろう。助け舟になるんだろうか…。


「おっ、お前ら…!!」
「おーい!ようやく付き合いだしたぞあの二人!」
「ばっ…馬鹿な事をぬかしてんじゃねぇよぃ、エース!!」
「何だ何だ?何を今更な事を言ってんだ?」


エースのよく通る声が船内に響き渡っているわけで、一人腕組みをし、暫し考える。
どうしようか。
エースの声とマルコの声が付き合っているだの
付き合っていないだのと言い合っているわけで、ううーん、どうしようか。


そもそも、こっちの世界に来て、
まあそれなりにやってきて(この適応能力もどうかと思うし、
今更突然戻ったとしても仕事なくなってるだろうしなぁ、とか考え出したらキリがないよね)
確かに反応が面白かったから、マルコの事をずーっとからかってきたわけですけど、
あんな夢見る前から嫌いじゃなかったっていうか好きだったよね?
そもそも誰よりも一緒にいる時間が多いし、何ら無理のない展開だよ…ね?


ゆっくり振り返れば手が付けられなくなったらしいマルコが
エースの口を塞ぐ事を諦め、戻って来た。あらら、酷く疲れてらっしゃる…。


「マルコ!」
「何だよぃ」
「疲れてるとこ悪いんだけどさ」
「―――――俺も話があるんだ、早く言えよぃ」
「あたしは、嫌じゃないんですけど」
「…」
「嫌じゃないっていうか、あの」
「そんなのは、俺もだよぃ」
「え」
「多分俺もお前と同じだが、正直お前みたいな女は初めてだから
どうしていいのかがちっとも分からねぇし、自分の気持ちがイマイチ理解出来てねぇ、というか」
…それは告白のテンションとして妥当なの…?
「それが分からねぇから困ってるんだろうよぃ」
「そ、そんなものは手前の心の中で考えて下さい…」


な、何て斬新な思いの披露方法なの…!?
いや、正直なのはいい事だろうけど、だろうけど!何この無駄なダメージ…。
そんなに考えなくてもよくない!?好きか嫌いかでよくない!?
駄目なの!?こっちが戸惑うわ!
ていうかこれ、あたし振られたの?何なのこれ?


「あ、あの…マルコ…?」
「…」
「よし、仕方ねぇ」
「仕方…!?」
「なぁ、。俺と付き合―――――」
「仕方ないって何だこの馬鹿!!」
「な…!?」


失言が増えるのはどうにもあたしだけじゃなかったらしくて、
まぁマルコも失言だらけだったんですけど、
言うに事欠いて仕方がないとはどういう了見だこの野郎!!
という旨を前提に大説教ですよ。あたしの方からの初大説教。
そういえばこの人、隊長だったけど仕方ないよね!


まぁ、結果としては説教後から正式に付き合う事となりまして、
それなのにこれまでと何ら変化が見られないというのはどういう事なの?
付き合い始めってこう、高鳴ったりとか意識し過ぎたりとか、
嫌に気を使いあうとか、あるじゃない?そんなんまったくナシなの?
いやーでも、愛情を示したりしなさそうだしなぁ、マルコ。
その辺りは追々分かり始めるだろうけど…。


や、まあ兎も角よ!
何か分かんないけどあたし達(一応)付き合い始めました。

久々の第三惑星。付き合い始めました。
上司の件は只の願望です。
しかし、むかつく告白だ…。