灯りという灯りをまず消した。手始めにだ。
クラシックな外灯をまず壊し間接照明の類も壊した。
一歩一歩と闇が広がり追い詰める感覚が手に落ちる。
耳を澄ませばの吐息さえ聞こえそうで密かに幾許か呼吸を止めたのだ。
彼女がはいていた高いヒールは今どこにあるのだろう。
薄いプラチナで爪先とヒール部分がカーマインのあれ。
華奢なストラップが足首に幾重も巻きついていたあれ――――――
まるで猫のようだと思ったのに。
深深と冷え込むレンガ造りの床に指を伸ばし屈み込む。
このままここに横たわり眠ってしまおうと思える。
じっと動かず息を潜めていればいいのだ。
白い足首がこちらへ向かい、白蘭を跨ぐその瞬間に掴めばいいのだ。
まるで爬虫類、トカゲのようにピタリと床に横たわり、横たわり。
「つかまえた」
悲鳴にさえならない掠れた声が闇を切り裂く。
掴んだ足首を強く引き身体ごと倒す。
咄嗟に背中へ回された左手を床に叩き付けデリンジャーを跳ね除けた。
の顔を確認する為にぐんと近づけ目を見つめる。
何かに酷く怯えているような、思いつめた眼に何もかも吸い取られそうだ。
「って誰よ!?」
「…」
「ねぇ、って誰なの!?」
あたしはじゃあないと張り詰めた声で叫んでいる。が。
何を言っているんだ、お前がじゃないか。
口には出さずとも知れたのだろう。
大きな声で違うと叫んだ彼女の口を掌で塞ぎ首筋に噛み付く。
の舌が掌を舐めた気がし、反射的に己が甲に口付けた。
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緩々と揺さぶられている身体が頭について来れずにいる。
自分の身体なのにまったく支配が及ばない恐怖、
抵抗する間もなく剥かれた事情にしろ思考力の明らかな低下にしろ。
先ほどから自分をと呼び狂おしく愛しているこの男にしてもだ。
誰か他の人の事を愛し慈しみ何故別の女を抱くのか。
全てにおいて理解不能、何故自分が巻き込まれているのかも分からない。
まったく力の入っていない右手を自分の心臓部分に重ね
ここが痛むと仕切りに訴え続けている。
これは恐怖、畏怖だ。
それ以外の言葉では表す事が出来ない。
一体誰を見ているの。
「あぁ…」
生ぬるく嫌らしく吐き出された吐息と流された視線。
白い髪の毛が汗でしっとりと濡れている。
「どうして何も言わないの、」
「何が…」
「どうしたの、不感症にでもなったのかな」
「ぅ、うっ!」
「痛みは分かる癖にね」
右膝をぐっと持ち上げ一番奥まで突っ込まれた。内臓を抉られるような感触だ。
毎度セックスをする度に不思議に思う。何故体内に入り込めるのか。
乳房にしろ性器にしろ触られたところで気持ちよさは微塵も湧かず、
一切の快感が押し寄せない事が不可思議だ。何故。
そもそもこの男と遭遇したのはいつ頃だったっけ。
何故この男は近づいたのだろうか。
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手の甲まで垂れた体液の匂いが濃く充満している。
幾ら腰を振れども一滴も精液を垂れ流せず、
絶頂に達せない苦しさが理性を殺した。
貪欲なほど下品なほど腰を振り性器を子宮壁に叩き付ける。
まるで夢の中での出来事みたいで感覚が曖昧だ。
道端で遭遇しそのまま一週間かけ辺りを詮索、俗に言うストーカーと化す。
「…ねェ
」
「やめてよ」
「
―――――」
「誰なのよ、それ」
虚ろな眼差しでどこかを見つめながら
同じ問いばかりを繰り返している
を見ながら気づいていた。
ではない事は知っていた。
別の女の名前を呼びながら目当ての女を抱く。
こんなに歪んだ性衝動に困らないとは言わない。
「どうしたのかな」
全然イケやしない。
ゆっくりと手を伸ばし細い首に指を絡ませる。動脈に指先を合わせ力を込めた。
今の今まで抜け殻だった
の目に光が戻り、
白蘭の心臓部分に重ねられていた手が強く叩き付けた。
強すぎてはいけない、死んでしまう。
弱すぎてはいけない、達せやしない。
「や、め」
「あと少し」
「…!」
恐ろしさで
の涙が零れた時にようやく達せ、
小さな呻き声を漏らしながら精液を排出する。
頭皮にさえも鳥肌立つような著しい快感。
別にこれが
であろうが
でなかろうが、そんな事は余り関係ないか。
何かもうどんな性癖なの白蘭、という話なんですが。
ごめんなさいという言葉しか出てきませんけどね。
結局主人公の名前で呼ばれている人は誰なの?という。
挙句主人公出て来てねえからね。どんな話だ。
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