このカラダに答えがあるなら


海賊-マルコ




「お前は、本当に馬鹿な女だよぃ」
「…笑えるわね」
「何?」
「馬鹿なのはあんたの方でしょう、マルコ」


僅かに腫れた唇には血が滲んでいた。
唾液と共に吐き出された言葉を受け、
まあとうに血の上っていたマルコはの髪を掴み、顔を上げさせた。
潤んだ瞳の理由は、この女の性だ。
そうしてそんな罠にまんまと嵌ったのが自分だと知っていた。


あの広い海の中、随分性質の悪い女だと
評判だったと最初に遭遇したのは何が理由だったか。
深い谷間に髪が絡まり、憮然とした表情の
舐め上げるようにマルコを見つめた。


「あんたの単独行動なの、これ」
「気になるかよぃ」
「は。あたしをモノにしたかっただけなんでしょう」
「笑えねぇ冗談だ」


心が透けたわけではないだろう。
この女はこういう女だ。


「あんただけじゃないのよ」
「だろうな」
「こんな事までするなんて、可愛い男ね」


の右足首には海桜石の足枷がはめられている。
元々はの所属する老舗の海賊団との抗争が発端となった。
所属とはいえ、実質ナンバーワンのポジションにいた
はマルコと戦う事になった。
随分長い間、その戦いは続いたように思える。


だからだ。
長い間戦ってしまったから知ってしまった。
この女の美しさの下にゴロゴロと転がる死骸の数にしろ、
男を引き寄せる魅力の理由さえも。
噂を耳にしていたものだから、最初は警戒していた。
悪い噂の耐えない割に皆が手を伸ばす女。
何かしらの理由があるだろうとは思っていた。


「残ったのは、お前一人だよぃ」
「船長はどうなったの」
「…野暮な事は聞くんじゃねぇよぃ」
「殺したのね」


あんたが殺したの。
ようやくの眼差しが歪み、それと同時に奇妙な高揚感を覚えた。
老練した彼の船長は、こんなを持て余す事無く、
一つの戦力として使える唯一の男だった。
関係があったかどうかは分からない。
孫ほど年の離れた女相手に魅力を感じるかも
今のマルコには分からないからだ。


白ひげと対立する事はなく、
あえて共存の道を歩んでいた団の秩序を乱したのはだ。
とマルコの争いから飛び火し、
最終的には船長の首が飛ぶ結末を迎えた。
馬鹿な娘の尻拭いをするのも自身の役目だと呟いた老人は
凛とした姿勢のまま最後を向かえた。
首を跳ねたのはマルコだ。後戻り出来なくする為に。


「どうしたよぃ、。泣きそうな面ぁして」
「…」
「誘ってるように見えるよぃ」


の手首を掴み床に組み敷けば、彼女の眉間に僅かな線が刻まれる。
恵まれた容姿、肢体をこれ見よがしに見せつけられ、
これまで随分な苦渋を飲まされてきた。


「言ってたろぃ、俺は」
「何」
「お前は能力に頼りすぎなんだよぃ」


だからこんな目にあっても、逃げ出す事すら出来ねぇ。
耳側で囁き、反応を伺う。
ジャラリと足枷が揺れた。絶対に逃げ出せない。


「…ぅ」


こんなやり方を選んだ癖に、まず唇を奪うだなんて間抜けな話だ。
心を心が通わせたがっている。
呼吸さえ奪いたいと舌を割り込ませ貪れば、
引いたの舌が右へ左へと逃げるものだから躍起になった。
悲しむ暇なんて与えない、
俺以外の事を考える暇なんてお前には与えねぇよぃ。


が首を振り逃げようともがけば罠は完了。
軽い呻きに似た声を漏らしながら舌を絡める。
冷えた肌の上を指が滑れば腹部が強く揺れた。
マルコ自身の高揚も随分続いているようで、既に起立した性器が熱く疼く。
別にこれが最初で最後というわけではない。
だから、何も焦らなくていい。それでも気は逸る。
呼吸を奪い、唇を離せばの胸が大きく上下した。
酸欠のまま目をきつく閉じているを見下ろす。


「…何よ」
「何?」
「只の獣じゃない、あんたも」


荒い呼吸のまま嘲るようにが呟いた。
そうして、その一言でマルコも箍が外れた。
歯を立てるように首筋に吸い付き、仰け反る彼女の背を欠き、
蹂躙する間もないほど性急に性器に触れる。


そう。これが最後でないのなら、
まずはこれまでの思いを吐き出したい。
心は二の次だ、まずは身体で吐き出す。
唾液で濡らし、性器を押し込めばが細い悲鳴を上げた。
痛みのせいだとは知っていた。


まるで内臓に近い熱さに息を飲み、ひとまず動きを止める。
歪んだの表情をゆっくりと見つめ、
痛みのせいのか、それは心なのか身体なのか。
分からないが、一筋の涙が零れ落ちるのを確認し、腰を叩き付けた。


このカラダに答えがあるなら、事が終われば全ては片付くはずだ。
これまでの飢えは癒えるはずだ。
道理ではそうだろうが、癒えるはずがないと分かっている。
細い腰を掴み、の身体を揺さぶりながら貪れば
泣き声に似た彼女の喘ぎ声が耳を通り過ぎ、直接、脳に突き刺さる。


今日から明日、明日から明後日。
時間の概念など捨てて交わりあえば癒えるのかと、
一瞬だけだが馬鹿げた考えが脳裏を横切ったが
気持ちよさの仕業だと知っていた。


海桜石祭第三作目はマルコでした。
というか、初めてマルコの裏書いたんじゃないか。
…クソほど暗いんですけどねー。

2010/3/30