泣くほど好きなのに








この小部屋に閉じ込められどれだけの歳月が過ぎたのだろう。
当初はどうにか逃げ出してやろうと躍起になっていたが、
どうにもこうにもならないのだと知り諦めた。



小さな天窓から差し込む光は心もとなく、
天候の有無だけをどうにか知らせる。
衝撃を吸収する素材で出来た床と壁、
日に三度食事が差し入れられる引き出しがついた鉄の扉。
何をしても無駄だ。



眠りから目覚める度に生活に必要なものが揃えられ、
今となってはちゃんとした部屋と半ば化した。
只、だけが変わらずここにいる。
ここに存在させられる。
気が狂いそうだ。



どうしてここにいるのだろうと、同じ疑問が浮かんでは消える。
ここに来る前、私は一体何をしていたっけ?
記憶がぼんやりと薄れ掛け、慌てて軌跡を残す。
床に、壁に。爪で。
そうでもしないと―――――



〜〜〜」
「…」
「元気か〜〜〜??」



鉄の扉は不定期に開く。
そこから入ってくる男も決まっている。
に勝った男だ。
そして全てを奪った男。



この男が入ってくると、
四隅に設置され24時間稼働している監視カメラが動きを止める。
そういう事だからだ。



最初の頃は暴れ、抵抗もした。
それ以来暫くの間、投薬を受けていた事もある。
脳がぼんやりと動きを止めかけた状態で犯された事も屡々だ。
そんな事が続き、もう諦めた。



「…まだあの男を愛してるのか?」
「…さぁ」
「もういない男を愛するなんて無意味だ。無駄な事はやめろ」
「だからって」
「まぁ、俺を愛する道理もないな」



この男―――――
撻器はあの日からずっと身体を貪っている。
もう最近には、うっかり忘れてしまいそうになるが、
こちらが愛した男を殺したのだ。手に入れる為に。



いつになっても、どれだけ歳月が経とうとも
彼を愛している思いは変わらないはずなのに、
少なくとも仇を愛する事はないはずなのに。
身体を自在に弄る指先は柔らかく、最早知った愛撫になった。



「…嫌だ」
「…」
「やめてよ」
「お前もおかしな女だな」



心よりも先に慣れた身体は、撻器の侵入を今か今かと待ち侘びる。
これまでどうにか嫌がる事で自身の意識を妨げていたのに、
これではまるで意味をなさない。
あの人を愛している私を殺さないで。



「もう、とっくに俺を愛してるだろ」
「そんな」
「そうに決まってる」
「そんな事、ない」



身を捩り快楽から逃げようとしても、
溶けていきそうな下半身がそれを許さない。
これまでどうにか許さずにいた、
挿入中の口付けさえ許してしまい、頭の中は更に混乱した。
いつになってもきっと愛しているはずなのに。



「お前が認めれば、即座に自由にしてやれるぞ」
「…!」
「無論、俺は愛してるが」
「…!!」
「その様子じゃ、お前だってそうだ」



酸素を求める唇が苦しそうに動き、幾度目かの絶頂に達する。
こんなやり方を許した身体が許せず、
あれだけの事をした癖に優しい指でこちらを抱く撻器が許せず、
気も狂えない自身が許せない。
きっとまだ彼を愛している。
だけど。



「…まぁ、いいさ」



だから泣くなと言い、撻器は頬に口付けた。
この部屋を出る頃に変わっているのは身体なのか心なのか。
いっそ殺してくれよと思うがそれだけは叶わず、
この小部屋に繋がれる。






私が大好きな撻器さまです(愛)
もう驚くほどの愛だ
エロさは置いといて、
好き嫌いのありそうな話なのでこちらへ
零號になって間もない頃の撻器さまかな

2015/11/01