だめです。そこでおわりです。








はあはあと言葉にならない声だけが響き渡っている。
最初の逢瀬は往々にしてこんなものだ。
言葉少なに身を捩り、とりあえずの目的を達成する。



おあつらえ向きに外は雨だ。
雨音が丁度いいBGMにもなる。
雨どいを伝い落ちるその音がクリアに聞こえ、
何も考えていないのだと思った。



あの後すぐに店を閉めたは、
全蔵と共に雨降りしきる町へ出た。
一つの傘に二人身を寄せ合い、だ。
高杉の手の者が張っている事は知っていた。



「…ぁ、はぁ」
「今更っちゃあ今更なんだが」
「…何よ」
「いいの?」
「今、それ言うの?」
「だよなー?」



ふわふわとした足取りで宿へ縺れこみ、
済し崩し的に求め合えばタガも外れる。
時折探りのような会話を挟みながら決して核心へは触れず、
薄暗い部屋の中で口付けた。
知らない味がした。



とりあえずこちらからは何もしかけず、
この場限りのルールを捜す。
細く長い指がこめかみから耳、首筋へ流れる。
口付けながら。
無意識に声を殺す。



「我慢するなって」
「ぇ…っ、あ」
「五感で楽しまねェと」
「ちょっ」



気づけば下着が外されており、
男の両手はこの身体を好き勝手に動き回る。
ざらついた舌が腹を舐めた。
全身がむず痒いような感触に襲われる。
こういうセックスは初めてだ。



やはり比べてしまう。
あのロクでもない思い出と。
それを消し去りたく、現在の行為に没頭するのにこの様だ。



体内に侵入する指先、性感帯を這う舌、全てが違う。
当然だ。だってこれは、



「力抜けって」
「!」
「本当にいいのかってもう一回聞きたいトコだけど、
流石に今更止めらんねーのよ」



瞼の上で囁く全蔵の吐息は熱い。
強く抱きすくめ身動きを奪った男の姿は少しだけ似ていた。













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精を出し尽くした後の生ぬるい時間だというのに、
はすぐにシャワーを浴びに向かった。
それはそれで面倒でないし
(ピロートークを求められるよりマシだ)そんな柄でもない。
気怠い身体を動かすつもりはなく、腕を伸ばし煙草を取った。



あの店を訪れだして半年。
実際に関係を持つ事になるとは思っていなかった。



「!」
「お先」
「…帰んの?」



戻ったはすっかり余所行きの姿に着替えており、
まるで何もなかったようだ。
つい先刻まで交わした身体も、何も。



「手は貸さないわよ」
「…知ってたの?」
「あんたが来た日からね」
「随分と人が悪ぃな」
「そんなのは」



お互いさまでしょうと笑ったは、
やはり知らない女のようで、
先程まで触れていた女は一体誰だったのか、
そんな詰まらない事を考えた。



少ない情報によると彼女は攘夷戦争の生き残りらしいのだが、
今、目前に立つ女からは血生臭ささえ感じ取れない。
高杉が姿を見せなければ到底信じられなかっただろう。



「俺ァあんたを始末したくねェんだ」
「あたしを、あんたが?」
「あぁ」
「楽じゃないわよ」
「だろうな」



今回の任務は、この女を攘夷側に渡さない事。
彼女の立ち位置が中立だという仮説の元、
決められた計画だ。
その立ち位置の確認の為、半年を費やした。



「晋助にも手は貸さないわ」
「…」
「あたしは、誰とも手を組まない」



そう伝えてと呟いたは部屋を出て行く。
どうして俺と寝たのだと、他愛もない疑問をぶつければ、
心がないからよと、彼女はそう笑った。






どうしても全蔵のやってるとこを書きたく
頑張って書いてみました
全蔵が好きなのです
書き難いけどね、、、
続きます

2017/2/23