何食わぬ顔をして大切なのだと言って退ける事が出来る。 とても大事な部下だから、だとか、 それ以外の特別な存在だから、だとか。 言い様は幾らでもあるわけで、改めて言葉にする事もない。 湿った土の上をゆっくりと踏みしめるように歩く。 あの日捕らえて以来、 件の地下室に閉じ込めたきりの彼女の事を考える。 体力を奪う為にあえて食事の回数を減らしている。 三日に一度程度の頻度だ。 自ずと排泄物の量も減るが、それなりの量は出る。 虚ろな眼差しで床を見つめるの足元を汚すそれらを キレイに掃除し、普段通りの会話を嗜む。 ある程度の覚悟をしていたらしいはそれなりの言葉を返し、 まるで何事もないかの如く時間は過ぎる。 こんな真似は正しくない。 そんな事は分かっている。 我ながら欲望が右往左往と定まらないのだ。 道理として納得している正しさ、衝動が求める欲求。 俗にいうリビドーとやら。 これまでは難なく押さえつけていたそれらが暴れ出した。 を、見つけたあの瞬間から。 「…」 無理矢理にでも抱けば気は済んだのだろうか。 今となってはよく分からない。 そういった欲求ではなかったような気もするし、 精を吐き出せば萎える程度の欲求だったような気もする。 結果、地下室の椅子に縛り付け捕らえ続けていたというのが 只の事実だ。 「…逃げたか」 又、お前は俺の元から逃げ出すんだな。 思わず零れたそれが本音という事だろう。 外から錠をかけたドアは開き切り、 そこにいたはずのの姿はない。 心がざわつき始め、それをどうにか抑え込む。 協力者がいるはずだ。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 協力者は簡単に割り出せた。 割り出したというか、最初からそこにいた。 賭朗だ。 この組織がを助け出した。 彼女の所在が掴めなかったからだ。 実際に救出へ向かったのは弥鱈だという話だ。 こちらへいつ誰かが来てもいいように待ち構えてはいたが、 誰も来なかった。 その事実に心が酷く軋んだ。 当の弥鱈が口を開かなかった為、 凄惨なの姿は知られる事がなかった。 一握りの人々以外には。 その一握りには無論、真鍋も含まれる。 も口を割っていなかった。 心は癒えない。赦されない。耐えきれない。 今すぐにでもの病室へ向かいたかったが、 能輪や門倉達がいる為、出向かない。 それが逆に不自然かとも思ったが、気が乗らなかった。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 「…」 「匠」 だから又、こんな闇夜に紛れ病室に入り込む。 は起きていた。 「どうして言わなかったんだ」 「…何を?」 「俺の事」 「別に―――――」 助けてくれだなんて思ってもいなかったとは言った。 あのままあの地下室で朽ちてもよかったのだと。 そんな事を言うなよと、どの口で言える。 「幸せな結末何て想像も出来ないし」 「…」 「そんなものきっと掴めない」 「…」 「ごめんなさいね、匠」 よかれと思ってああしたのよ。 あんたの為だと思って。 でも駄目ね。 は言う。 あたし達、愛され慣れてなくて。 心はこれまで以上に乱れ、眩暈さえ伴う。 求めていたもののはずなのに、 いざ差し出されると違うような気がして恐ろしくて掴めない。 耐え切れず部屋を出て行った。 【ただ生きたくて⇒なくした現実感、生への焦り、の続き】 真鍋さんがどんどんこんな感じになってしまって エロくもないのに裏行きですよ、、、 愛され慣れてない悲しい二人の話 まだ続く 2017/07/24 |
pict byNEO
HIMEISM
|