愛が美しかっただなんて、そんな








何食わぬ顔をして大切なのだと言って退ける事が出来る。
とても大事な部下だから、だとか、
それ以外の特別な存在だから、だとか。
言い様は幾らでもあるわけで、改めて言葉にする事もない。



湿った土の上をゆっくりと踏みしめるように歩く。
あの日捕らえて以来、
件の地下室に閉じ込めたきりの彼女の事を考える。



体力を奪う為にあえて食事の回数を減らしている。
三日に一度程度の頻度だ。
自ずと排泄物の量も減るが、それなりの量は出る。



虚ろな眼差しで床を見つめるの足元を汚すそれらを
キレイに掃除し、普段通りの会話を嗜む。
ある程度の覚悟をしていたらしいはそれなりの言葉を返し、
まるで何事もないかの如く時間は過ぎる。



こんな真似は正しくない。
そんな事は分かっている。
我ながら欲望が右往左往と定まらないのだ。



道理として納得している正しさ、衝動が求める欲求。
俗にいうリビドーとやら。
これまでは難なく押さえつけていたそれらが暴れ出した。
を、見つけたあの瞬間から。



「…」


無理矢理にでも抱けば気は済んだのだろうか。
今となってはよく分からない。
そういった欲求ではなかったような気もするし、
精を吐き出せば萎える程度の欲求だったような気もする。
結果、地下室の椅子に縛り付け捕らえ続けていたというのが
只の事実だ。



「…逃げたか」


又、お前は俺の元から逃げ出すんだな。
思わず零れたそれが本音という事だろう。



外から錠をかけたドアは開き切り、
そこにいたはずのの姿はない。
心がざわつき始め、それをどうにか抑え込む。
協力者がいるはずだ。












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協力者は簡単に割り出せた。
割り出したというか、最初からそこにいた。
賭朗だ。
この組織がを助け出した。
彼女の所在が掴めなかったからだ。
実際に救出へ向かったのは弥鱈だという話だ。



こちらへいつ誰かが来てもいいように待ち構えてはいたが、
誰も来なかった。
その事実に心が酷く軋んだ。



当の弥鱈が口を開かなかった為、
凄惨なの姿は知られる事がなかった。
一握りの人々以外には。
その一握りには無論、真鍋も含まれる。
も口を割っていなかった。



心は癒えない。赦されない。耐えきれない。
今すぐにでもの病室へ向かいたかったが、
能輪や門倉達がいる為、出向かない。
それが逆に不自然かとも思ったが、気が乗らなかった。











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「…
「匠」



だから又、こんな闇夜に紛れ病室に入り込む。
は起きていた。



「どうして言わなかったんだ」
「…何を?」
「俺の事」
「別に―――――」



助けてくれだなんて思ってもいなかったとは言った。
あのままあの地下室で朽ちてもよかったのだと。
そんな事を言うなよと、どの口で言える。



「幸せな結末何て想像も出来ないし」
「…」
「そんなものきっと掴めない」
「…」
「ごめんなさいね、匠」



よかれと思ってああしたのよ。
あんたの為だと思って。
でも駄目ね。



は言う。



あたし達、愛され慣れてなくて。



心はこれまで以上に乱れ、眩暈さえ伴う。
求めていたもののはずなのに、
いざ差し出されると違うような気がして恐ろしくて掴めない。
耐え切れず部屋を出て行った。








【ただ生きたくて⇒なくした現実感、生への焦り、の続き】
真鍋さんがどんどんこんな感じになってしまって
エロくもないのに裏行きですよ、、、
愛され慣れてない悲しい二人の話
まだ続く

2017/07/24