未来の死んだ街

辺り一帯はもう火の海で、至る所で破裂音が響いている。
何が起きたのかまったく理解出来ない頭は、
目に映る情報さえも処理しきれておらず、不思議と音も聞こえない。

瓦礫の山の中に倒れていた理由は何だ。
何故ここにいて、この状況は何だ。

「…」

ふっと影が重なり、顔を上げる。
右手を差し出した杉元が、笑っていた。

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この街に新手のギャングが参入してくるという
情報がタレこまれたのは、丁度三日前の事だ。

住民の所得が低く、元々治安の悪かったこの古い街では
地元のギャング達が毎日のように抗争を繰り広げており、
危機的状況が続いていた。

新しい住人はほぼ来ず、生まれも育ちもこの街の人間が大半を占める。
四半世紀ほど前には大きな工場があったらしいが、
世界的な不況も波に飲まれ閉鎖した。
それから一気に閉塞化が進み、今のこの有様というわけだ。

若者には夢もなく、何より金がない。
ドラッグの蔓延は、この街の住民たちの糧でもある。

「おい、」
「月島さん」

生まれも育ちもこの街で、酷く貧しい生い立ちを克服し
道を誤らない者も少なからずいる。
もその一人だ。

彼女の口から詳しい話を聞いた事はないが、
苦学の末、警察学校へ進み、こうして真っ当な職に就いた。
産まれの負をどうにか克服した稀有な存在なのだと、
上層部の人間もご満悦な様子だった。

「新しいギャングですか…まだ見てないけど」
「出自は不明だが、暫くは気にかけておいてくれ」
「はい。あ、尾形さんが呼んでましたけど」
「…」

忙しなく署内を駆け回るは、夜勤明けで一先ず家に帰るらしい。
出くわす署員と一言、二言、何事かを話しながら出口まで向かっている。
若く、美しく、気真面目で、良い後輩―――――

「うっとり見つめてんじゃねェよ」
「黙れ尾形」
「そういうの、セクハラっていうんだぜ」

が振り返り、一礼する。
ニコリと月島から見ると完全に嘘の笑顔で尾形は手を振り、
は署を出て行く。

これがまさか最後になるとは、月島も尾形も、
当のでさえ思ってはいなかった。

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買い出しを終え、自室であるアパートへ戻る。
この街で産まれ、この街を守る仕事に就くとは思ってもいなかった。
自宅周辺はこの街の中では比較的治安の良い方だ。
御近所さんとの付き合いも長く、皆、の現状を喜んでくれている。

鍵を開け、買い出した荷物を片手に部屋へ入る。
瞬間、感じる違和感。
テレビの男が聞こえる。
荷物を床に置き、銃を手に取った。

息を潜めリビングへ向かう。
ソファーに男が座っていた。
こちらに背を向け、テレビに見入っている。

「手を上げなさい」
「！」
「動かないで！」
「！」
「…佐一」

振り返った男は、お前を迎えに来たんだと、そう言い笑った。

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産まれてすぐに捨てられたのか、
物心がついた頃には既に杉元と二人だった。

こんな街にも児童養護施設はあるわけで、
そこの記憶が一番古いものとなる。
酷く汚いそこでは虐待が横行しており、幼いは常に怯え泣いていた。
対して反抗的な杉元は格好のターゲットとなる。
いつもボロボロの杉元とは、文字通り二人、支え合って生きてきた。

事態が好転したのは、その児童養護施設の解体が決まった時の事で、
凄まじい折檻の末、水をかけられ放置されていた杉元は
流石に死にかけていたものの、市の職員に発見され一命を取り留める。
暫くの入院を経て、新しい施設へ入る事となった。

先に施設へ入っていたは、依然と比べ随分明るくなっており、
杉元を笑顔で迎え入れた。
虐待は影を潜め、子供たちを健全に育てるべく
新しい運用が試されていたのだ。

学校にも行く事が出来、は楽しそうだった。は。
学校では施設組として多少の差別を受けたが、世界が広がった。
は真面目に授業を受けていたと思う。
杉元は―――――

「久しぶりだな、」
「なんで」

杉元は力を得た。
広い世界も力で生き抜く事が出来ると知り、それを求めた。

学校一の問題児となり、ここいら一帯を仕切り始める。
元々がそういう土壌の地だ。
組織以外の場所では、杉元は好意的に受け入れられた。

故に、学校や施設では厄介者扱いであり、
その事を彼も知っていたのだと思う。

確かあれは、雨の降った日。
試験を控え、一人夜中まで勉強をしていたはずだ。
部屋の窓に何かがあたり、思わず顔を上げる。
杉元がいた。
思わず駆け寄る。

『こんな時間に何してるのよ、見つかったらまた怒られるわよ』
『俺、出てくわ』
『えっ？』
『でも、絶対お前の事、迎えに来るから』
『佐一』
『約束するから』

フードを被った杉元は、そう呟くと
施設に横付けしてある車の方へ走り、二度と振り返らなかった。

その翌朝、随分早い時間帯だ。
警察が施設へ家宅捜索に来た。
対象は勿論、杉元であり、だから彼は姿を消したのかと想像する。

以外の誰も杉元が消えた事を知らず、
そんな中で彼はこの街から消えた。

「何でってお前」
「…」
「迎えに来るって言ったろ？」
「そう、だけど」
「ていうか、お前、何で銃とか持ってんの？」

危ないから俺に寄越せよ。

「どうして戻って来たのよ、佐一。あんた、指名手配中なのよ」
「ん？」

風の噂で杉元の現状は届いていた。
こういう仕組みの街だ、名を上げれば上げる程、評価が上がる。
評価が上がれば上がる程、罪を重ねるという事だ。
地元のマフィア連中も常に杉元の動向を警戒していた。

警察に入ってすぐの頃に杉元の起こした事件を洗ってみたのだが、
尋常でない数だった為に諦めた。
少なくとも五つの指名手配書が出ていた。

「何でお前がそんな事―――――」
「おい、杉元！その女、刑事だ！」
「！？」

もう一人の声が聞こえ、思わず振り返る。
床に置いたはずの荷物を持った男がバッチを見つけたのだ。

「えっ、おい、杉元！」
「…っ！！」

銃を取り上げた杉元が、の鳩尾を強かに殴りつけ、
そこで記憶は途切れた。

海外ドラマっぽいオールです
①ギャングスター杉元
②バディ月島尾形
要素がけんかしてる・・・！
私が思う杉元の危うさみたいなのを書きたくて
書き出したんですけど、クソ長くなって
まだ書きたい所も危うさも書けてないんだよね、、、

2017/11/25

NEO HIMEISM

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