夢の脆さを知っている

• 意識を取り戻したのは、恐らく数時間後の事で、
  後ろ手に縛られた身体はソファーに転がされていた。
  鳩尾の辺りは未だ痛むが、どうにか身を起こす。
  
  
  
  「あ、気づいた？気づいた？」
  「あんた…」
  「俺？俺は白石！杉元の仲間」
  
  
  
  よろしくねと馴れ馴れしく声をかけてくる男は、
  先程こちらの荷物を勝手に漁っていた男であり、
  思わず食ってかかろうとするが両腕が使えない状態では、
  身を捩る程度が関の山だ。
  
  
  
  「あんた、何なの。何が目的なの」
  「いや、俺もよく知らねーんだけど、あんた、あいつのコレなんだろ？」
  「はっ…？」
  「だって、お前、あんだけ迎えに行くって言ってんだから、
  　何かしらあるでしょうよ。あるよね？」
  「…」
  
  
  
  確かに杉元は迎えに来たと言っていた。
  すっかり思い出す事もなくなっていた過去の記憶がフラッシュバックする。
  あの、なにものでもなかったあの頃。酷く無力な二人。
  
  
  
  「でも、それは」
  「あいつ、あんたを迎えに行くってすげえ頑張ったんだぜ？
  　単身乗り込んだり、敵対組織を潰したり。
  　もうあれは鬼神の如くってやつだったね」
  「…」
  
  
  
  そこでようやく思い至る。
  新しいギャングとは、まさか―――――
  
  
  
  「喋り過ぎだ白石」
  「っ！戻ってたの？」
  「アジトを借りてきた。行って指示出して来いよ。みんな来てる」
  「マジで！」
  
  
  
  杉元が投げた鍵に飛びついた白石は、
  じゃあねーなどと気の抜けた言葉を発しながら消えていく。
  残されたのは拘束されたと、杉元だ。
  沈黙が流れる。
  
  
  
  「…何で警察なんかになったんだよ」
  「…」
  「俺はそんな事、頼んでもいないし、
  　お前にそんな事をさせるつもりは更々なかったってのに」
  
  
  
  そんなクソ組織からは一刻も早く離れろと杉元は言う。
  
  
  
  「あたしは自分で望んで警察になったのよ、佐一」
  「いいや、まさか」
  
  
  
  そんな道理がねェ。
  
  
  
  「佐一」
  「お前は俺の事だけ信じろ、。
  　周囲の雑魚共なんかじゃなく、俺を、俺だけを信じるんだ」
  
  
  
  そう言う杉元の眼差しが余りにも真摯で、
  昔と変わらないもので、言葉に詰まった。
  彼は、今この状況を当然だと思っている。
  何らおかしな点はないとさえ。
  
  
  離れていた時間は思っているよりも果て無く、２人の世界を完全に隔てた。
  恐らく怯えているのだろうが、それを知られるわけにもいかない。
  
  
  奥歯を強く噛み締めていれば、どう勘違いをしたのか、
  理解したと判断した杉元がこちらを抱き締める。
  酷く混乱しているのだろう、の目には僅かに涙が滲んでいた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  ドアを閉めろというジェスチャーをした尾形は、
  通話を切りそこへ座れと促す。
  
  
  何故この男だけ個室が与えられているのかといえば、
  こいつは上層機関からの査察だからだ。
  
  
  目的がありここへ来ているが、そもそものスタンスが違う。
  要はキャリアという事で、とりあえずの待遇というところか。
  
  
  お情けの如く同室に月島の使い古されたデスクが運び込まれた時には、
  多少なりとも殺意が芽生えたが、
  確かに個室の方が頗る快適な為、不問にした。
  
  
  
  「あのタレこみは、ガセじゃない」
  「新参ギャングの参入ってやつか」
  「お前、ロシア系マフィアのキロランケって知ってるか」
  「表向きはビジネスマンってやつだろ。
  　ロシア国内で手広くやってるらしいな」
  「今、うちがそいつの身柄を拘束してる」
  「！」
  
  
  
  尾形の話はこうだ。
  
  
  半月前にとある資産家の遺体が発見された。
  元よりマネーロンダリングやら脱税やらと
  胡散臭い噂の絶えない男だった為、
  上層組織が捜査にあたっていたところ、
  その殺し方から見るに、ロシア系マフィアのやり口と
  酷似しているという結論に達したらしい。
  
  
  金の流れを詳しく調べると、
  この数年の間に多額の送金をしている会社があった。
  ロシアに本社を置く、缶詰の会社だという登記だったが、実態はない。
  キロランケ系列のペーパーカンパニーだったと発覚し、
  事情聴取と相成った。
  
  
  当然キロランケは一言も喋らず黙秘を続け、
  にっちもさっちもいかない状況に陥った。
  残された時間は一週間。
  
  
  
  「詰んでるな」
  「そうでもない」
  「！」
  「その殺しに関与したと思われる男の目星がついたのさ」
  「まさか」
  「そう、新進気鋭のギャングスター、杉元」
  
  
  
  少数精鋭のギャングであり、仲間以外の人間を一切信用しない。
  冷酷ではあるが残虐ではなく、実態の掴みにくいギャングだ。
  悪事を働く事に罪悪感はなく、手っ取り早く金にするべく、
  元々根付く組織を食い荒らす為、同業者からも煙たがられていた。
  
  
  跡形も残さないからだ。
  奴らが通った後にはチリ一つ残らない。
  そんな曰く付きの組織。
  若い彼らが何故そこまでの無理を通せたか。
  
  
  
  「キロランケ」
  「ご名答」
  
  
  
  表向きには一切そのような素振りはみせず、
  そもそもどういった接点があったのかも分からないが、
  杉元の背後にはキロランケの組織があった。
  
  
  何の目論見で手を組んだかは分からないが、
  察するに組織拡大が目的なのだろう。
  両者ともにうまみがあったのだ。
  
  
  兎も角、杉元は各地で様々な組織を食い荒らし、着実に力を溜め込んだ。
  中々浮上してこない杉元を尾形の同僚は延々張っており
  (その間に数人が始末されたようだが)今回のこのタレこみに至る。
  
  
  
  「まあ、俺がこんなスラムに来たのも、杉元が目的だったからな」
  「！」
  「誰が好んでこんなに汚ェ街に来るか。
  　杉元の地元じゃなかったら一生来てないぜ。
  　お前だって別にここが出身ってわけじゃないだろう」
  「…俺は別に嫌いじゃないからな」
  「お前が好きなのはだろ」
  「なっ」
  「あいつはここの人間だぜ、俺はどうかと思うけどな」
  「だから、そういうのじゃ」
  「おい、ちょっと待て」
  
  
  
  話しながら弄っていたスマホの画面に視線を落とし、黙れと指を立てる。
  向けられた画面。
  
  
  
  「もう、この街に来てやがる」
  
  
  
  その画面に映っていたのは、上機嫌で歩く白石の姿だった。
  
  
  
  
  
  

  �Bロシアンマフィア、キロランケ
  要素追加
  見た目で決めました
  白石を出せた事に満足してます(白石はまだ出ます)
  キャリアの尾形とノンキャリの月島
  警察組織っぽいのは日本とアメリカを混ぜてるので
  余り気にしないでください(雑)
  
  
  2017/11/25