不敵な笑みを湛えた傍観者

• 何だか散々嫌な予感はしていたのだが、つい先刻だ。
  それは的中した。
  
  
  部屋の前で女性職員が数人待っており、
  尾形と月島の姿を目にするや駆け寄って来た。
  外面の酷くいい尾形に女が群がる事は侭あり、
  またいつものやつかと月島が辟易としていれば、どうやら様子がおかしい。
  
  
  詳しく話を聞いてみると、が来ていないらしい。
  月島の眉間に深い皺が刻まれる。
  
  
  連絡をしても返事がなく、電話をしても出ない。
  あの子が無断欠勤なんて絶対におかしい。
  一人が言えば、皆が口々に言いだす。
  
  
  ああでもないこうでもないと、堂々巡りの会話を聞き流す尾形の背後で、
  月島が電話をかけている。やはり出なかったようだ。
  女たちをどうにか追いやり、部屋へ入る。
  
  
  
  「行くか」
  「何？」
  「の家だ。行くぞ」
  「…」
  
  
  
  お前がそんな事を言うなんて珍しい事もあるもんだなと軽口を叩きつつ、
  こいつは相当にややこしい事態になったと、腹の中で舌打ちした。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  白石からの電話が切れた後、杉元はの拘束をきつく締め直した。
  遮ろうとするも到底かなうわけもない。
  様子を見て判断しようと思っていたが、この分ではどうやら望み薄だ。
  タオルで猿轡をする。
  
  
  これはお前の為だと言っても、恐らくには伝わらないだろう。
  思いなどそう簡単には伝わらないものだ。今も昔も。
  
  
  ふと指先が濡れ、が泣いている事に気づく。
  自身、驚いているようで、感情が昂ったというところか。
  
  
  お前を泣かせるつもりなんて一つもないのに。
  いつだって逆張りの人生だったが、一番肝心な時でさえ心は通じない。
  そういう時にはどこか、心の中のどこかがジクジクと痛み、
  ひた隠しにしているよくない感情が暴れ出す。
  
  
  こいつを抑えるのは一苦労で、
  だから一番血気盛んだったあの時代に身を隠したというのに。
  顔を背けるの髪に触れ、そして―――――
  
  
  その先に進む直前に、テーブルの上に乗せていたスマホが鳴った。
  ふと我に返る。
  
  
  着信は白石だった。
  
  
  
  「お前、大丈夫だったのか」
  「出て来ちゃったよ、何かおっかなくてさぁ」
  「まあ、新参だからな」
  「お前の地元じゃねーの？あ、そうそう」
  
  
  
  そういえばと白石は切り出す。
  
  
  
  「…は？」
  「刑事が二人、そこに向かってんだって！」
  「お前、それ先に」
  「お前を狙ってる奴らだ」
  「刑事が二人、ここに…？」
  
  
  
  白石の拙い説明を聞きながらふとに視線を向ける。
  刑事が二人。
  その部分に反応を示した。
  知り合いというところか。
  
  
  話を続けながら必要なものを集め、窓から外を伺う。
  とりあえず白石はそこから逃げろと言い、
  俺は先にアジトへ行ってるぜと告げ電話を切った。
  
  
  はまだこちらを見ている。
  何ともいえない、酷く不快な気持ちになった。
  まだあの感情は身を潜め切れていない。
  ほの暗い場所でこちらの様子を伺っている。
  
  
  床に落ちていたパーカーを拾い上げた杉元は、それを羽織り、
  目から下をバンダナで隠した。そうしてフードを被る。
  
  
  そんな目で見るなよ、。
  俺はそんなに悪くないぜ。
  
  
  
  そう呟いた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  迷う事なく向かう足取りで確信したが、
  月島は一度、いや二度三度との家に行った事があるようだ。
  
  
  バディといえども別に私生活に立ち入る必要もないし、
  下手に立ち入れば相手もこちらへ入って来かねない。
  そいつは御免だと放置していればこれかと呆れる。
  
  
  この男はこんな場所であんな女と愛を育むつもりなのだろうか。
  自身に非はない。
  あれはあれで恵まれぬ人生の中で必死に生きてきた口だ。
  悪くはない。だが、圧倒的に良くない。
  少なくとも警察という組織の中では。
  
  
  この街は掃き溜めだ。
  不要な人々が渦巻き、もう再生出来ないところまできている。
  社会はそれを放置し、ブラックホールとして再利用する事にした。
  ここに全てを集約させるように、他に被害が出ないように。
  
  
  そんな中にある警察組織などたかが知れている。
  月島はそれでも正義を貫くつもりなのだろうが、
  尾形にしてみればやはり意味のない事に思えて仕方がない。
  
  
  ここにいる限りお前にゃ先がねェ。
  
  
  幾度か直接言った事がある。
  その都度この男は、そんな事はないと答えていたが、その理由はこれか。
  往々にして理由は存外下らない。
  
  
  の住むマンションに到着し、幾度かインターフォンを鳴らす。
  反応はない。
  心当たりを捜そうぜと、尾形が踵を返しかけた瞬間、
  月島が鍵を取り出した。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  部屋の中は僅かに乱れていた。
  初見では分からない程度だ。
  
  
  正直なところ、鍵を取り出した月島に割と本気で引いたのだが、
  それは言わないでいる。いや、無理だ。
  
  
  
  「お前、あいつと付き合ってるのか？」
  「いや…」
  「付き合ってないのに鍵を持ってるのは変だろ」
  「そうかな」
  「そうだろ」
  
  
  
  何故かまったく自覚のない月島に戦慄を覚えつつも、室内の様子を伺う。
  やはりはいなかった。
  
  
  血相を変えた月島が、署長に連絡を取っている間、
  願ってもないチャンスが転がり込んで来やがったと室内を物色する。
  
  
  と杉元の関係は早い段階で判明していた。
  だが、当の杉元がまったく姿を見せない事、
  2人の間の空白の期間が10年近く経過した事を受け、
  保留の状態だったのだが、今回の件を受け、ようやく動く事となった。
  この女が杉元と連絡を取っている事が分かれば手っ取り早いのだが、
  残念ながらそれらしい証拠はない。
  
  
  何せ月島と何かしらがあるかも知れないのだ。
  泳がせるつもりだっただけに、惜しい。
  人のコマに何をしてやがるとお門違いな腹さえ立つ。
  
  
  
  「おい、尾形」
  「！」
  「白石が逃げた」
  「…」
  
  
  
  電話を終えた月島が、そう告げた刹那だ。
  カチンと、酷く違和感のある音がした。
  このリビングの何処から。
  
  
  月島と尾形の目線が、
  カウンターに置かれたアタッシュケースに注がれる。
  それは確かに最初からそこにあり、圧倒的に異質だ。
  
  
  二人の視線がケースから離れ、
  交差した時には既に身体は動きだしており、
  出口に近い月島がドアを開け、そのすぐ後ろに尾形が続く。
  玄関まで後―――――
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  「終わった。今から向かう」
  
  
  
  バンの運転席からの部屋の爆発を見届けた杉元は
  アクセルを踏み、ゆっくりと車を出す。
  後部座席に転がったは猿轡の中で悲鳴を噛み殺しており、
  今度は確かな涙を流している。
  
  
  泣くなよ。杉元はそう言い、
  そんなに悪い事ばかりじゃあないぜ。
  
  
  そう微笑んだ。
  
  
  
  
  
  

  �Dあぶない刑事ばりの爆破
  要素追加
  海外ドラマのはずがあぶ刑事みたいになったんですが
  どっちも面白いからゆるしてください
  主人公の影が圧倒的に薄い事に
  気づかない振りをしていたのですが
  今回で浮き彫りになりました
  吃驚してます
  
  
  2017/12/05
  
  NEO HIMEISM