己一人が不幸と嘆いた

• 鳴りやまないサイレン音に辺りかまわず照らす赤色灯。
  消防の人間が住人たちを避難させていた。
  
  
  突如爆発を起こしたという通報が回線に集中し、
  一時パンク状態に陥ったらしい。
  
  
  元々、治安の悪いこの街でも、
  爆発を伴うような事件はそう頻繁に起きず、
  つい先刻から上空をヘリが旋回し始めた。
  
  
  何故だか奇跡的に大した怪我もしなかった月島と尾形は、
  2人して手当を受けていた。
  
  
  あの異質な音はやはり起爆スイッチの音であり、
  あのままリビングにいたら死んでいただろうと言われた。
  
  
  反射的に飛び出し、リビングから離れた為に命を拾った。
  衝撃で身体は壁に叩き付けられ、破片は全身に降り注ぐ。
  咄嗟に両腕で頭を庇い熱波を防いだ。
  
  
  一頻りの衝撃が過ぎ去った後にどうにか身を起こせば、
  そこは既に何もない場所と化しており、一瞬だが脳が思考を止めた。
  
  
  そんな月島を覚醒させたのは、尾形の悪態であり、
  あいつも生きてたのかと安堵する。
  
  
  とりあえず立ち上がろうと足に力を入れるが、
  立ち眩みがそれを阻止した。
  
  
  
  「おい、月島」
  「何だ」
  「最悪、これ。時計」
  「値の張る時計なんて仕事中にしてるからだろ」
  「俺のカレラが…」
  
  
  
  尾形は全身を値の張るもので固めているわけで、
  少し前にいい時計を買ったと言っていたが、
  それが今回の衝撃により、ものの見事に破壊された。
  
  
  右目の視界が悪く拭えば血が垂れていた。
  目前で時計が云々と騒いでいる尾形も頭部から出血していた。
  
  
  そうこうしている内に消防と警察が到着し、
  2人は手当の為に現場を後にした。
  こいつは一大事だぞと頭を抱える署長の姿が目に浮かぶ。
  
  
  
  「これでの関与は確定したな」
  「いや、違う」
  「違わないだろ。上はどう判断すると思う」
  
  
  
  この期に及んで納得しない月島にイラつく。
  まあ確かに自分の女が事件に関わっているとなると
  穏やかではいられないと思うが、
  ここまで話がでかくなっては隠しようもない。
  
  
  それに、これはきっと、も知らない話ではないはずだ。
  
  
  まるで気は進まないが、これはもう仕方がないと判断する。
  胸元からスマホを出し、月島の鼻先に突き付けた。
  
  
  丁度、報告がてら送信したメールが表示されている。
  と杉元の過去の関係などを纏めたものだ。
  
  
  
  「お前、最初から知って」
  「俺たちもずっと追っててね。
  　所轄はともかく、うちは杉元を上げに来てる。
  　も無傷じゃすまねェぞ」
  
  
  
  月島の眉間に深い皺が刻まれた。
  互いに見つめ合ったまま沈黙が流れる。
  
  
  別にこちらに協力をしてくれ、だなんていうつもりは毛頭ない。
  邪魔さえ、この俺の邪魔さえしてくれるな。
  恐らくこの思惑は伝わっているはずだが。
  
  
  
  「…」
  「おい、月島」
  「…」
  「おい！」
  
  
  
  スタジャンを片手に、尾形の呼びかけにも応えない。
  行く宛もないだろ。
  尾形が一人呟いた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  バンは何の滞りもなく進む。
  この街はやはり古く、暫くぶりだというのに
  道は全く変わっていないのだ。
  酷く懐かしい景色を見ながら、勝手知ったる道を行く。
  
  
  泣き疲れたは眠ってしまったのだろうか。
  少し前からやけに静かだ。
  そんな時だ。
  幾度目かの角を左折した瞬間。
  
  
  
  「…あいつ」
  
  
  
  あの、の部屋に入った男二人。
  後ろの男。
  あの男に見覚えがある。
  あれは、あの男はどこかで―――――
  
  
  信号待ちの10秒、もう二区画で目的地だ。
  やけにスローに景色が流れ、否応なしに脳が記憶を巻き戻す。
  
  
  あの男だ。
  どこか、過去のどこかで見かけた。
  あれは、そうだ。
  あれは―――――
  
  
  
  「パパ・キロランケ…」
  
  
  
  確かそうだ。
  いや、間違いない。
  確実にそうだ。
  
  
  キロランケと手を組んでいた頃、あの男の屋敷ですれ違った男だ。
  確かゲストとして招かれていた。
  
  
  元より手を組んだだけで仲間ではない。
  挨拶程度の接触で終わった為、何の為にそこにいたのかは分からない。
  
  
  時期としては丁度、あの最悪の前触れ。
  まだあいつもそこにおり、
  キロランケの命じるままに悪事を重ねていた頃と合致する。
  
  
  バンを止め、ふと振り返れば泣き腫らした顔のがこちらを見ており、
  記憶が混乱しそうだ。
  ハンドルを握り、目を瞑る。
  
  
  あの男2人はの先輩だろう。
  その内の一人があの男。
  繋ぐのはキロランケ―――――
  
  
  
  「…そういう事かよ」
  
  
  
  だからもう、こんな街にを一人にしておけない。
  そもそも、こんな街があってはならない。
  
  
  全てが罪深く、救い難い。
  俺も、お前も、世界も、全てが。
  
  
  
  
  
  
  

  �E続けてあぶない刑事ばりの不死身さ
  要素追加
  お前何でそれで死んでないの？というやつです
  ここにきてやっとパパ・キロランケ出せたー
  割と早い段階でその呼び名は決まってたんですけど
  中々書けなくて一人で呼んでました
  ロシアでもパパでいいらしいよ
  ついったにも書いたんですが、
  尾形はいいスーツに高い時計
  月島はデニムにスタジャン
  よくあるやつです
  
  
  
  2017/12/13
  
  NEO HIMEISM