悪魔が優しくても不都合はない

投獄中にずっと考えていたという案を引っ提げ、
早速パパ・キロランケの元へむかった。

パパ・キロランケはいつもの部屋にいつもの状態でおり、
とりあえずは白石の言葉に耳を傾けていた。

白石の案は、縄張りの拡張だった。
現在、どの地域にもギャングがおり、
其々の組織をマフィアが取り仕切っている。
新しい縄張りを増やせば、それに準じて実入りも大きくなり、
簡単にいうと売上が倍増するわけだ。

只、ここまで組織が大きくなれば、中々そうも出来ず、
完全にタブーとされている方法だ。
何せ、事がでかくなる。
血で血を洗う可能性もなきにしもあらずだが―――――

「そこで、必要になるのがコイツです」
「…確かに」

レアな手だな。
パパ・キロランケが言う。

「元々、コイツは仲間じゃないって話だ。
　だから、これは俺たちが勝手にやってるビジネスって事になる」
「…」
「俺たちの最大顧客があんただ」
「やってみろ」

即決は流石というところか。
細かい打ち合わせが終わり次第、
取り掛かりますと告げその場を後にした。

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その後は、とんとん拍子に進んだ。
パパ・キロランケがGOを出したという事で、
一先ず白石と杉元は二人だけの組織を結成。
パパ・キロランケ側からの脱却を果たした。

仕事の内容は驚くほど簡単なもので、
色んな町のそういう界隈へ出向き、力づくで縄張を奪うという、
ただそれだけのものだ。

トップを杉元が叩き、その後、白石が交渉に入る。
そんな雑なやり方の為、幾度か死にかけたが
身体に傷を残しつつ、しぶとく生き延びる。

気づけば吸収したギャングの数は10を超え、
仲間と呼べる奴らに囲まれていた。
パパ・キロランケの金回りの良さも随分と影響している。

とはそれこそ金を渡す時にだけ顔を合わせる。
出回る事の多い杉元は完全に疎遠となった。

その日も出先から夜遅く(というか、深夜だ)に戻った杉元は、
自室のドアが開いている事に気づく。
正直なところ、またかと思ったが黙って中へ入った。

「おっかえり～」
「ここで何してんだよ」
「さっきまでと話し込んでてさ」
「人の部屋で話し込むんじゃねぇよ」
「お前、の事好きじゃないだろ」
「いや、別に…」
「お前ね、あいつは可哀想な女なんだぜ」

ちょっとそこに座れと、相変わらず白石は我が物顔でそう言う。

俺、疲れてるんだけど。

杉元がポツリと呟いた。

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「あいつはな、海のない砂漠の町に生まれたんだよ。
　ここみたいに寒くない、むしろ年中暑い町。
　何で知ってるのかって、俺もそこの出身だから。
　あいつの兄貴とは割と仲良くてさ、良いヤツだったよ。
　まあ、俺は昔っからこうだから、地元を離れたのは早くてさ。
　ガキの頃しか知らないんだけど。
　俺ってほら、もう地元に戻れない系じゃん？だから」

この町でに出会った時は、死ぬほど驚いたと白石は言った。
白石が流れ流されこの町に辿り着いた後だ。

パパ・キロランケが又、女を連れて来やがったと
(あの男は定期的に女を連れて来る)恒例の噂が立ち、
どんな女だと顔を見に行けば、そこにいたのはだった。

とある噂を耳にしていた白石には、
その光景がまったく信じられず、
その日の夜にが滞在している部屋へ忍び込んだ。
パパ・キロランケに見つかれば殺されかねない状況だったが、
丁度会議が開かれていた為、安全だと判断した。

白石の顔を覚えていたは、
忍び込んだ男に驚きつつも再会を喜んだ。

「お前、噂、聞いたぞ」
「…」
「お前の家族は」

あの寂れた町は一族のものだった。
一見、酷く寂れた何もない町に見えるが、
古くは移民を売買し、半世紀前はゴールドラッシュに沸いた歴史を持つ。

脛に傷を持つ一族は、過去を清算すべく清廉潔白な生き方を求めた。
弱きを助け強きを挫く。名士として慕われていた。

そんな町にパパ・キロランケが訪れたのは、必然だった。
虐げられた祖先の為に男は出向き、過去の清算を求めた。

ゴールドラッシュの際、掘り出された金塊があるはずだ。
そいつで手を打とう。

一族しか知り得ない情報を持ち出し、揺さぶりをかける。
先祖の無念を晴らさねばならないのだと、男はそう言う。

交渉は決裂。
至極静かに、結末は訪れる。

まずは父親が町外れで殺され、次に兄が殺された。
証拠は一切なく、それでもパパ・キロランケの仕業だと分かっている。
打つ手がないまま、自宅で母親と使用人が殺された。

その頃になると、町中に噂が広まっており、
人々は故郷を捨て散り散りになった。

誰も居なくなったその町に、パパ・キロランケは再度来た。

随分な不幸があったと聞いてね。
大丈夫か、。

まるで親身に、それらしい口調で男は囁く。
判断が分からず何も返せなかったに、
パパ・キロランケは近づく。

こんな町で何をどうする。
沈没船から逃げ出すネズミの様に、住人は皆、いなくなったぜ。
只―――――

お前が余りにも哀れだ。

肩に手を置き、耳側で囁く。

俺は哀れな女を見過ごせないんだ。

男の思惑が知れ、怒りで身が震える。
家族の仇が今、目前にいる。
だけれどここでは何も、打つ術がない。

どうにか冷静さを保ち、
パパ・キロランケの言うがままに住み慣れた家を後にする。

車に乗り込みすぐだ。
激しい光が町を包み、思わず振り返る。
町は燃え盛っていた。

「って事はお前、まさか」
「そう」

寝首を掻く為にここへ来たのだとは言った。
それはよくないと、余りにも杜撰な判断だと言いかけるが、
丁度ドアの外がざわついた。
早く逃げてと白石の背を押すに何も言えず、その夜を終える。

パパ・キロランケは恐ろしい男だ。
欲しいものはどうしたって手に入れるし、手段は厭わない。

の話を聞く分には、最初から狙っていた可能性さえある。
金塊と、どちらも手に入れ過去の清算も済ませる。
完璧な計画だ。

その白石の不安は的中する事となる。

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蝋燭の明かりが室内を照らしていた。
当然の舞台はそこに用意され、断る術などどこにもないように思えた。

正面に立つパパ・キロランケはの髪を撫で酷く紳士的に振る舞う。
世界で一番ゲスなやり口だ。

隠し持ったナイフで一思いに殺せるのか、
それだけで頭の中は埋め尽くされている。

パパ・キロランケがの肩に手を置き、背後から囁く。

それで俺は殺せないぜ、。

振返る前に男の手はの右手をきつく握り、刃物を取り上げた。
酷く強張った頬に口付け笑ったように思う。

そのままベッドに突き落とし一言。

馬鹿な女だ。

ネクタイを外しながら吐き捨てる。

当然こんな予定ではなかったは、
その場から逃げようと体勢を変えるが、
それよりも先にパパ・キロランケが覆い被さった。
左ひじで両肩を抑え付けられ身動きが取れない。

「お前、のこのこと俺について来て、どういうつもりだったんだ？」
「殺してやる」
「ふうん…」

俺はこの場面を思い描いていたよと、パパ・キロランケは言った。

お前を初めて見た時からずっと、この場面の事だけを考えていた。
こちらの思惑はあったが、お前を手に入れる事が出来た。

首を掴まれ呼吸が出来ない。
意識を失う直前で指は離れ、顔を背け咳き込む。

このままではいけない、酷く危険だ。
柔らかなスプリングのベッドは手足が取られ思う様に身動きが取れない。

「っ！？」
「動くなよ」
「何」

チクリとした痛みが走り振り返れば、
パパ・キロランケが膝の後ろに注射器を刺しているところで、
全身の血の気が引く。
注射器の中の液体は血液を溶かしながら全て注入された。

「何したの」
「いい事だよ」

俺はこっちだけどな。

手の甲に置いた粉を一気に吸い込む。
動悸が大きくなり、目を開けていられなくなったは
ベッドに倒れ伏し、心臓が破裂しそうなほどの衝撃に耐えている。
よくないものを体内に注入された。

まるで身動きの取れない己の身体がまるで別物のようで、酷く煩わしい。

「…」
「…！」
「さあ、これから愉しもうか」

頭の中が一瞬にして冷え、何かが壊れたような音がした。
それとほぼ同時に倍増した感触、感覚。
パパ・キロランケの指先が触れる先から、
尋常でない快感が走り声を抑える事が出来ない。

酷い渇きに堪えきれず水を欲す。
口移しで流し込む男の唇を貪り、この身を絡める。

もう何がどうなっているのか、そもそも何故ここにいるのか。
この男は誰で、何故この男に抱かれているのか―――――

「家族の仇に抱かれて、どんな気持ちだ」
「…！」
「業の深い女だ」

そういう女に興奮するのだと、そんな言葉を聞いていた。
幾度も容易く達しながら見える景色はそこにしかなく、
碌々、呼吸も出来ないでいる。

ああ、そうか。
今更気づく。

深淵をのぞく時、
深淵もまたこちらをのぞいているのだ―――――

⑧突如始まった出奔後の杉元回想②
バリバリの薬物セックス
要素追加
メリークリスマス！
本日はクリスマス・イヴという事で
キロランケに申し訳ない出来栄えなんですけど
本当スイマセンでした
私は好きですキロランケ
本当だよ！

2017/12/24

NEO HIMEISM

Photo : NEO HIMEISM　 Design : klee