手を伸ばした先にはなにもなかった

あんたと同行なんて最悪なんだけどと、が深いため息を吐く。
そんなのはこの俺も同じなんだぜと返せば、目を見て舌打ちをする。

簡単にいうとそういう関係であり、
互いのバディが殉職しなければ一生組む事はなかっただろう。
当然のように女の姿をしている癖に、
男勝りだと称されるこの女の事は好きでない。
見透かしたような眼差しが癪に障る。

そう思っているのはどうやらこちらだけではないらしく、
も似たような事を思っているようだ。

決して似た者同士とは言わないが、交わる部分が確かにある。
目に見えるそれはバディの殉職。
見えないそれはまだ分からない。

ターゲットの部屋が見える、
こんな場末のモーテルに2人寄り添い、部屋に張ればまるで一人。
一先ずベッドに寝転んだ尾形はカーテンを閉め、
外の様子を伺うをぼんやりと眺めた。

「この分じゃ、今日も望み薄ね」
「だろうな」
「？」
「奴さんは今、病院だ」

触っていたスマホを見せる。
つい先ほど流れた速報だ。

某組織のトップが瀕死の状態で病院へ運び込まれた。
詳細は現在調査中―――――

トップ不在の組織は揺れに揺れ、それでもNo.2が声明を出した。

「無駄足ね」
「そうでもないさ」
「何よ」
「コイツだ」
「それって確か、組織のNo.2のキロランケ？」

No.2として長年、組織を牽引してきた男だ。
年を取り、多少の我の強さが目立ち始めたトップを上手く操縦し、
組織の力を確固たるものへ昇華させた。

今回の一件も、騒動が広がる前にキロランケが声明を出し、
表面上は落ち着ている。

「…そいつが何だっての」
「協力者にする」
「あんた、正気なの」

そんなの、上が許可するわけないじゃない。

の表情はみるみるうちに強張り、
まるでこちらを断罪するかのように眼差しを尖らせた。

けどな、。お前じゃ役不足だ。
断罪される義理はねェぜ。少なくとも、お前だけには。

寝転んだ状態から腹筋で起き上がり、乱れた髪をかき上げる。

「俺が何でお前を選んだと思う」
「知らないけど」
「お前、殺しただろ」

の顔色が一瞬にして変わり、瞳孔が少しだけ開いた。
何の話。咄嗟にそう返す。

お前の相方。あいつ、お前の事、ずっと犯してたんだよな。
お前と組んですぐだってんだから、もう何年だ？

「…何を言って」
「ほう、しらばっくれるか」

なら、これはどうだ？
お前は半年前からいい関係の男が出来た。
だからあいつが邪魔で仕方がなくなった。

あいつはお前を使い、手柄をどんどんと挙げてたからな。
お前の手柄は全てあいつのもの。
どういうつもりでお前がその関係を続けてたのかは知らんが、
大方マトモじゃなくなってたんだろ。
すっかり汚れたその身体を持て余して、暴露を恐れ身動きが取れない。

ゾッとするぜ。
お前を喰い散らかしたあいつにも、
喰い散らかされてるのに抵抗しないお前にもな。

「…」
「別に責める気はないんだぜ、俺は」
「…」

それに―――――

「正しい判断だったと思うぜ、いや、ようやくマトモになったってトコか」
「何が望みなの」

ぎゅっときつく拳を握る理由は、震えが止まらないからだ。
誰にも知られたくない秘密を全て知られた衝撃に耐えきれないでいる。

尾形の言う事は全て事実であり、あの男と組んですぐに犯された。
何が起こったのか理解出来ず、曖昧に流した。
それが男を増長させた。
散々にこの身は貪られ、どんどんと深みに嵌る。

このままではいけないのだと頭では分かっているのだが、
犯されているという事実を知られる事が恐ろしく、
曖昧に脅してくる男に抗えない。

古参でもある男の信頼は厚く、ひよっこ程度の告発など意味をなさない。
移動を願い出ても男が手を回し常に却下された。

「俺がキロランケと関係を築くまでの間だぜ」
「！」
「お前は俺の言う通りに動けばいい」

そう長い時間はかからない。
尾形は言う。

「何をするつもりなの」
「お前に言っても分からないさ」
「パイプが出来たら、解放してくれるのね」
「あぁ」
「どう信じろと？」
「…」

少しの沈黙後、尾形が僅かに笑んだ。

「俺のバディは、まるで理解を示さなくてね」
「…」
「分かるな？」

これで契約完了だなと手を差し出す尾形は、を見据えている。
逃げる事は出来ないのだと察したは、その手を掴む事も出来ず、
短期的な緊張から生じる吐き気を堪えていた。

ギャングスタ番外編
尾形赴任前の話です
とりあえずこのシリーズの尾形を掘り下げてます
というか、このシリーズの世界観が酷すぎる
現実もそんなもんですか。。。
キロランケにまだパパがついてない時代です

2017/12/28

NEO HIMEISM

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