潰れた鈴の小唄

• この町は尾形のいう通り、確かに掃き溜めだ。
  ここら一帯が酷く退廃しており、生産性の欠片も見当たらない。
  
  
  100年程前までは製造業の大規模な工場が広がっていたらしいが、
  工場の閉鎖と共に人々は去り、ライフラインも置き去られた。
  町を離れ職にありつけた人間はほんの僅かなもので、
  大半が舞い戻りこの住み慣れた町を根城に日銭を稼ぐ仕事に就く。
  
  
  無論、子供達も同じくであり、
  未成年者の就学率が他の地域に比べ半数以上低く、
  流石に議題に上がったらしい。
  
  
  慌てた国は寄せ集めの教育機関を設置したが、寄せ集めは寄せ集めだ。
  逆に犯罪の温床となり今に至る。
  
  
  この町に赴任したばかりの頃は流石に驚きの連続であり、
  未成年者の逮捕率もさる事ながら、
  他の場所では明らかに犯罪とみなされる軽犯罪が
  見過ごされている事にも驚いたし、
  何より常識の通用しないこの町に拒否反応を起こした。
  
  
  見るからに子供の売春婦たち、
  それを取り仕切る、こちらも子供のギャング。
  ギャングからマフィアへ転身し、子供たちを搾取する大人共。
  目につくそいつらに隠れ生きる人々―――――
  
  
  全てが初めての経験で、一切の為す術がない。
  そんな中で仕事を続けていれば、
  掴まえた子供に、可哀想だって目で見るんじゃねぇよ。
  そう言われ気づく。
  
  
  彼らの世界はここで、彼らは特にそれを
  不自由と思ってはいないという事に。
  汚さばかりが目に付くが、
  露店では誰かが歌い妙に牧歌的な風景を見る事が出来るし、
  住人たちの横の繋がりは酷く濃い。
  
  
  彼らはこの町で産まれこの町で死ぬ。
  だったら俺たちは、彼らを出来うる限りの危機から守り、
  その生活を静観すべきだ。そう思った。
  
  
  考えを改めてからというもの、
  この町の住人達との距離は見る見るうちに縮まった。
  トラブルが起きそうな盛り場へ自ら足を運び、顔なじみを増やす。
  
  
  拘置所で見かけた奴らも少なくなく、
  どんどんと知り合いは増えて行った。
  
  
  の話は少しだけ彼女の口から聞いた事がある。
  この町が地元であり、この町の学校を出たという事。
  両親はいないという事。
  彼女は余り自分の話をしなかった。
  
  
  逆に、と同じ年齢のギャング達から聞く事が多かったくらいだ。
  ギャングと警察。立場は違えど、
  互いに一定の距離と保ちながら関係は築かれていた。
  
  
  月島が向かったのは地元ギャングのアジトであり、
  スラム街の丁度真ん中に位置する廃墟ビルの中にある。
  ビルの外には見張りのギャング達が屯っていた。
  
  
  
  「月島さん」
  「よぉ」
  「久しぶりっすね」
  「最近、お前が捕まってないからな」
  
  
  
  軽口を叩きながら中へ入る。
  少し前まで権力闘争により少しガタ付いていたが
  (その分、逮捕者も山ほど出た)今は新しいリーダーを据え、
  ある程度組織として落ち着いている。
  
  
  あの頃はすいませんでした、なんて
  頭を下げながら挨拶だってしてくる子供達だ。
  
  
  ズボンのウエスト部分には銃を隠しているし、
  大麻程度はザラにやっている、そういう子供達だ。
  
  
  
  「月島さんじゃないスか」
  「久々だな、ダック」
  「珍しいスね、こんなとこまで来るとか」
  
  
  
  廃墟の三階部分、その一番奥の部屋にダックはいた。
  このギャング内に置けるリーダーだ。
  今日はこの男に用があり、わざわざ足を運んだ。
  
  
  杉元の事を聞きに来た。
  ダックは杉元と共に時を過ごした男だ。
  
  
  
  「…杉元スか」
  「あぁ」
  「…」
  
  
  
  ここだけの話にしてくださいよ、
  そう釘を刺し、ダックは口を開いた。
  
  
  杉元はこの町を離れ、どういった経緯があったのかは分からないが、
  パパ・キロランケの手先となり、各地のギャングを吸収している。
  この町にいたロシア系のマフィア達は一時期と比べ随分姿を消した。
  
  
  それと同時に噂が届き始めた。無関係とは思えない。
  それに―――――
  
  
  
  「もうこの町にも来てるって噂っス。そうなるともう安全じゃいられねえ。
  　じきにここも戦場になるぜ」
  「…」
  「そういや爆発が起きたっスよね、まさかあれ」
  
  
  
  地元のギャング達も戦々恐々としている。
  あの爆発はまだ調査中なんだと答えるが、余り信じてはいない様子だ。
  杉元の存在はこの町ではアンタッチャブルであり、
  彼の存在自体がトラブルを招く。
  
  
  そんな男とは一体どんな―――――
  
  
  
  「あ、そういえば。あの女どうしたんスか。いつも一緒にいる」
  「何故だ」
  「いや、の事なんスけど」
  「何だ、戻ったのか」
  
  
  
  確か、この数か月姿が見えないという話だったが。
  
  
  
  「いや、何か半月くらい前かな。急に戻って来たんスよ」
  
  
  
  元々、酷く奔放な女の為、
  最初の一月辺りは誰も心配などしていなかったが、
  流石にそれが三ヵ月ともなると
  事件に巻き込まれたのではないかと噂が流れ出す。
  
  
  あの女は奔放だし我儘だし、どうしようもない女だが美しい。
  そうしてこの町の出身者宜しく、ここを愛している。
  何も言わず出て行くわけがないと皆が思っていた。
  
  
  奔放な女らしく、数人の男が
  彼女の行方を捜していたがまるで見つからず、皆がざわつき出した辺り。
  がフラリと戻って来た。
  
  
  見た感じおかしいところもなく、
  興味のない事に関して、まるで気のない態度も変わらない。
  やはりいつもの気まぐれかと思っていたが、
  それきり部屋から出て来ず、誰の声かけにも応えない。
  
  
  食い物と飲み物は誰かしらが部屋の前に置いている。
  それがなくなっている為、生きてはいるのだろうが
  は部屋から出て来ない。
  
  
  仲の良かったであれば話を聞く事が出来るかと思ったが、
  こちらから連絡を取ろうかと申し出ても、
  当のが頑として譲らない為、
  こちらへ来るのを待っていたらしい。
  
  
  只、残念ながらはここへ来る事が出来ない。
  理由は言わずもがなだが、それを口にするわけにもいかず、
  はどこにいるのだと聞き、部屋の前へ向かった。
  
  
  
  「おい、」
  「…」
  「は今、ちょっと取込中なんだ」
  「…」
  「今度、連れて来るから」
  「…あんた一人なの」
  「！」
  「いつもの、バディは」
  「尾形か？あいつは今日、いないんだ。ちょっと別行動中で」
  「…」
  「尾形がどうかしたか？」
  
  
  
  急に黙り込む。
  ドア越しの会話では相手の表情さえ伺えず、
  どうしたものかと考えあぐねていれば、徐にスマホが鳴り響いた。
  着信は尾形―――――
  
  
  
  「月島！！」
  「！」
  「ここに来た事は誰にも言わない方が良い」
  「はっ？」
  「尾形には気を付けて」
  「何？」
  
  
  
  尾形からの着信は未だ鳴り響いている。
  出る事が出来ずにいた。
  
  
  
  
  
  
  

  �Iギャングスタ第二章スタート
  要素追加
  本編に復帰しました
  そして今年に入って初めてのギャングスタです
  月島のターンからスタート
  しかも、この話をきっかけに名前変換が増えてます
  お手数ですが変換お願いします
  何故ならデフォルトは私が適当につけた名前で
  とりあえずクソダサいからです。。。
  
  
  2018/1/29
  
  NEO HIMEISM