驚くほどやわらかかったきみの喉笛

幾度かけても電話に出ない月島に苛立ちながらスマホを仕舞う。
あのバカ、どこで何をしてやがる。
こんな事態なのにだ。

そんな尾形は、爆発現場から少し離れた場所にある、多国籍バルにいた。
この街は治安がよくない。
貧しさの他、移民の多さがそれに拍車をかける。

このバルはそんなこの街の集大成のような店で、
いつ来ても色んな言葉が飛び交っている。

この店を頻繁に使うのは尾形のような人種だ。
この国の言葉ではない言語をあえて使い機密性を保とうとする人種。

「尾形」
「よお、」
「こんな所に呼び出すなんて、あんたも偉くなったもんね」
「そう言うなよ」

バルの奥の席に女は座っていた。
と呼ばれる女だ。

やせ形の長身で、赤いボリュームのある髪をしている。
細い身体は全身レザーでコーデされており、極めて目立つ。
随分待ったのだろう
(それもそのはずで、彼女との最初の待ち合わせ時間は一時間も前だ)
細い吸い殻が灰皿に山と溜まっていた。

「ターゲットはこの男だ」
「随分若いけど」
「こいつが今、拉致しているこの女の身柄を拘束してくれ」
「この男は？」
「こいつは俺の獲物だ」

手は出すな。

「約束は出来ないね」
「おい、アバズレ」
「気持ちよくしてくれそうな面構えだもの」

は紫煙を吐き出す。この女はそういう女だ。
気持ちよさを何よりも重視する。
快楽主義のいかれた女。
「俺が気持ちよくしてやるよ」
「無理よ」
「！」
「あんたとあたし、どっちも同じじゃない」

決して交わらないのよと言い切ったは伝票を尾形の前に置き出て行く。
去って行くの後姿を見ながら、何故だか久々に昔の事を思い出していた。

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この世は不要なものが多すぎて困る。
昔からそう思っていた。

必要なものはたった一つなのに、
不要なものがそれを覆い隠しこの手に出来ない。

尾形の幼少期は悪辣の一言で表現が出来る。
父親の存在は知らないが、母親は尾形が物心ついた時点で既に気が触れていた。
当然ながら生活力は一切ない。一切ない癖に尾形を離さないものだから、
生活はクソ以下の水準となる。

とにかく金がない。
金がないから食い物もない。
母親は尾形を離さず部屋に閉じ込める。

もう二度と誰にも自分を捨てさせないという
強い気持ちが彼女を凶行に走らせたのだろう。
行政が立ち入ろうとするがその都度母親が発狂し阻んだ。

思い出せる最後の母親は血を吐きながらこちらに腕を伸ばす姿だ。
誰も何も、幼い尾形本人が毒を盛り殺した。
不要なものだから。憐れだから。
生きる資格もないからだ。それが悪い事とは思っていない。
その原理でこれまで生きて来た。

パパ・キロランケの女を殺したのも憐れだからで、
あの女に関しては死んだ方がマシだっただろうと思う。
家族を殺され自身は薬物に冒され、
散々慰み者にされ生き永らえている意味が見いだせない。

あの波止場で対峙した時、あの女は何と言っていたっけ。

今回の一件に絡んだのも、
この街の掃討作戦を打ち出したのも尾形自身であり、
本部での会議の際、一箇所に集め一斉に破棄しましょう。

不要なものだ。
なににもならない―――――

そう言い切り半ば強引に計画を実行に移した。
不要なものはなくさなければならない。
その裏ではパパキロランケと繋がり、資金提供を受ける。
手段は問わない。
どんな手を使ってでもやり遂げる。

そもそも杉元の一件に絡んだ理由は
パパ・キロランケの女を殺した罪を杉元に被せる為だ。

まるで気持ちが理解出来ないのだが、
パパ・キロランケは血眼になり犯人を捜している。
己が仕出かした行為に一切の懺悔をしない癖に、
所有物が急に失せるのは許せないと見える。
それさえも薄ら寒く、馬鹿馬鹿しい。
だからこの街にを放った。

テーブルに置いているスマホが震えた。
月島からの着信だ。
お前、どこにいるんだよ。
何食わぬ顔をして電話に出た。

ギャングスタです

最後の更新が1月の末だったので

半年くらい放置してました。。。

吃驚したんだぜ

今回は尾形のターン！です

あ、あと新キャラ投入

しかもヒロイン？出てない

2018/06/25

NEO HIMEISM

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