息が止まりそうなほど驚く瞬間は意外とあるわけで、つい先刻がまさにそれだった。
たまたま顔を出せば先客にキッド達がおり、その奥にはアプーがいた。
ここはルーキーの集う酒場なのかと笑い、
ジョッキを片手にキッドをからかっていればローやボニー達も顔を出し、
明日にでもでかい戦いが勃発するんじゃないかと些か不安にさえなった。


ちっとも口を利いてくれないカポネに散々絡み
(結局彼は口を利いてくれなかった。あたしの一体何がご不満なのだろうか)
ノリのいいアプーと歌い、ウルージにお酌を強要されながらも楽しいひと時を過ごした。
久方振りに何も考えず深酒をしたと思う。


まあ、その流れ(頻繁に使うけれど、流れって何だろう。
それは何かの言い訳に使える言葉なのだろうか?)でローとキスをしていた、
だなんて笑い話にもなりはしないか。
酔い覚ましに外へ出たのが不味かったのかも知れないが、
酔えばいちゃつきたがる男は確かにいる。
ローにとって自分が特別な存在だとは思わないし、
手の届きやすい場所にいた女だったからだとは分かっていた。


嘘みたいに甘い言葉を耳元に口付けながら囁くローと戯れ、
このまま二人で抜け出そうと手を引かれる前に逃げ出した。
きっとあの男もそれを望んでいただろう。問題はその後だ。
戯れの感触を少しだけ引き摺りながら歩いていれば、
何をにやついてるんだと声をかけられ、死ぬほど驚いた。


「何、してるのよ…」
「さぁねぇ」
「あたし今、友達と飲んでて」


ちっとも顔を見せやしない癖に、こういう時にだけ何故現れる。


「なぁ、知ってるかい、
「何」
「恋人以外の男とキスしたら、そいつは浮気って言うんだぜ。そうして浮気をされた男は、死んじまいてぇほど傷つく」
「…それは誰の事を言ってるの」
「さぁねぇ」


階段に座ったエースは笑いながら、
店から頂戴して来たのであろうボトルを煽っている。
気まぐれに顔を出すこの男は真摯に値しない。
口の端から零れる液体を厭わず、そのまま胸元に垂れさせる男なんて愛せない。


「けどまぁ、俺はお前の事が好きだから、秘密にしといてやる」
「…」
「マルコの事も好きだしな」
「…へぇ」


だからこっちへ来いと口には出さず、腕だけを伸ばすこの男は何を考えているのだろう。
この悪い遊びは数年続いているし、だから同じような真似をしているだけなのにだ。
それでも心はマルコを求めるし、最終的には彼の元へ戻る。
分かっている癖に止める事が出来ない自分が駄目な女だと知っていた。



ほんとうに痛いのは


誰のこころだったろう



拍手、ありがとうございました!
第二十一弾はオール…?でした。
最低な話でごめんとまず謝ろうか、自分。
何かローはそういうイメージで、エースもそういうイメージで、
結局は書き手が一番悪質だという。
まあ、マルコは全部知ってるよね。
主人公が遊んでいる事は。
で、エースの件は、エースがマルコに言っている。
さ、最悪。
2010/5/20