自分の置かれている状況を把握出来ていないと嫌だ。
だから、まず状況を見る癖がついた。
は今、五メートルほど離れた場所にいる。
若者ばかりがたむろするこの狭い箱の中、
この国特有の音楽が大音量で垂れ流される中に
まず、そうしてローがいる。
その他大勢は正直、目に入らない(邪魔ではあるが)
タバコを取り出し、火をつけ、紫煙を吐き出す。
その光景まで確認し動き出した。




ふと気配を感じれば背後にローがいるわけで、
やれやれ又かと思いながら振り返る。
何食わぬ顔をしたまま、まるで今、
初めての存在に気付いたといわんばかりの態度で
口を開くこの男の腹の内は透けている。
問題は理由が分からない点だ。


「あんた、さっきから何をしてるのよ」
「歩いてただけだぜ」
「いや、あんたさっきからそこにいたでしょう」
「何を言ってやがるんだ、お前は。
 何だ?そんなに俺の一挙一動が気になるってのか」
「こっちの台詞ですけど」


煙草を取りだそうとすれば勢いよく叩き落とされ、
毎度お馴染みな戯れのスタートだ。


「…何するのよ」
「あぁ、悪ぃ。手が滑った」
「…」


もう一本取り出す。


「何なのよ!」
「悪ぃ悪ぃ、言うのを忘れてたんだが、実は喘息なんだよ」
「誰が」
「俺」
「…へぇ…。でも、あんた。煙草、吸ってるわよね?」


煙草を吸っている男に限って、煙草を吸うなと言うもので、
まさにこのローはその典型だ。
お前には似合わねぇ、そもそも身体に悪いだろうが。
その言葉、そっくりそのままお返ししようか。
臨戦態勢に入ったのも束の間だ。
自分の連れがぐっと肩を引くものだから、尚更焦った。
その瞬間のローの眼差し。


「おい、お前。何やってんだ」
「あ、ごめん。何でもないから」


を通り過ぎたローの眼差しは背後の男を見据えている。
勘弁してよロー。この人には何の関係もない話でしょう。
眼差しでそう訴えた所で聞き入れられる可能性は限りなく低い。
ローの口元が僅かに緩んだ。最悪の展開だ。
この男より先に恋人を見つけた所で、結局こうなるのならば、
落ち着く所は一つしかないではないか。それでも。


「こんな野郎よりも、俺の方がいいじゃねぇか。なぁ、
「…(最悪)」
「おい、。何だよ、こいつは」


そうしての手が男の腕を掴むよりも先に、
ローが刀を抜いているのだから、どうにも出来ない。
悲鳴に塗れた狭い箱の中、罪より思い想いが刃を剥いた。




ああもう、本当に最悪。


拍手、ありがとうございました!
第十二弾はローでした。
本誌(再)登場記念
2010/3/24