「どうしたの、そんなに怖い顔して」
「…
「そんなに怒らなくてもいいじゃない」


相変わらずの調子で口を滑らせるは、
言葉の重さとは反比例する表情でこちらを見ている。
まるで泣き出しそうな表情だ。
そんな彼女の表情を見ていれば、
こちらも大差ないような顔を晒しているのだろうと思え、
無性に遣り切れなくなった。


昨晩もこれまでと同じように手を取り、
ほぼ裸に近い状態で抱き合い、まあすぐに裸になり身を重ねた。
互いの立場に薄々、気づきながらそれでも目を逸らし、
大事なものから逃げていただけだ。
正義の二文字も闇深く消え去る。
いや、それは今でも同じか。


「こうなる事は分かってたでしょう?」
「泣き出しそうな面、しやがって」
「あんたも」
「何、言ってやがる」


ポートガスの処刑が迫ったこの日、
と対峙する事になると知っていた。
立場は違えど仲間を見捨てるような女ではない。
ポートガスが捕まってからというもの、
と会う回数は日に日に減っていた。
それが理由だとは知っていたが、あえて知らない振りを続けていた。
だから、こちらにも非はある。
昨晩、が囁いた言葉が未だ脳裏にこびり付き、
それでも納得が出来ないのだ。
あんたとこうなって随分たつけど、
いつだってあたしはあんたを想ってるわスモーカー。
それなのにあんたと一緒にいれないっていうのは淋しすぎるし、そうね。
産まれた時からあんたと一緒にいれたらよかったのに。
だからってこんな状態だもの、あんたと子供はつくれない。
唐突に何を言ってやがる。俺は。
いいから最後まであたしの話を聞いてよスモーカー。
何だよ。
今更考えても仕方のない事だけど、
どうしてたらあたしとあんたはずっと一緒にいる事が出来たのかしら。

核心を突かないよう、上手く語尾を誤魔化しながらは問い、
やはりこちらも語尾を隠し答えようと試みたが出来ず、
それでもどうしようもない遣る瀬無さを無視出来ず抱き締める。
あの時、本当は全て知っていると口にしたら
又、違った結末を迎えたのだろうか。


「こんな結末、誰も求めちゃいねぇぜ」
「ふふ」
「何、笑ってやがる」
「同じ気持ちだと思って」


命の散り行く現場で別々のものを守る為に対峙する二人は、
じきに喧騒に巻き込まれ見えなくなる。
この、終わりの見えない戦争の最中、
相変わらず昨晩の会話を忘れる事が出来ないでいた。



罰をください(罰を求めた罰、)


拍手、ありがとうございました!
第十四弾はスモーカーでした。
最近書いていたスモーカー話の主人公と同じ。
そうして終着地点がこの話だという…。
2010/4/9