あの女は天皇家の血筋の女で、
より強力な地盤を欲した父親が望み組んだ縁談の相手だった。


産まれた段階でその縁は決まっており、
そうする事が当然という認識で生きていた。
こちらが病に伏すまでは。


どうにも生まれついてこの身は呪われていたらしく、
二十歳になる前に死ぬであろうと告げられた。
母は我が子の不遇を恨み気が触れたようになり、父は早々に見切りをつけた。


世継ぎの望めない息子に存在価値はない。
あれほど熱望していた縁談もなくなった。


そもそも床に伏した無惨の元を両親は訪れず、
身の回りの世話をする侍女に様子を探らせれば、
すぐ下の弟が代わりに縁談をする事になった事実を知る。


まあ、確かにそれはそうだ。
世継ぎのいない貴族の悲惨さは想像するに容易い。
所謂、没落貴族というやつだ。
父は何よりそれを恐れた。


先方にどういう話をしたのかは知れないが、
無惨との縁談はハナからなかったものになり、は恙なく嫁いだ。


病床でいつ死ぬか知れないこちらと違い、
健全な弟は数人の嫁を娶り、好きな時に好きな女の元へ向かうわけだ。


性欲のようなものはない、只、ひたすらの屈辱。
こちらを切り捨て、なかったものにした恨み。
そういったものがこの身を蝕む。


母は無惨の姿を目にすると錯乱する。
筆舌に尽くしがたいような激痛にのたうち回る横で
気の狂ったように泣き叫ぶ母親の姿は何ものにも耐えがたく、
こちらも心を閉ざす他ない。


献身的な医師も中々成果を出さず苛立ちはピークを迎えた。
丁度その日、が世継ぎを産んだという話を侍女より聞いたばかりだった。



「…やぁ」
「無惨様」
「どうした、。そんなに声を震わせて」



泣く程、嬉しいか。



「後生です、どうか」
「!」



夜這い文化の横行したあの時代、夜中に出かける事は容易かった。
あの医師の治療はこの身を生かしたのだ。


生き延びた無惨を目にした家族は確かに慄いていたし、
それ以外の人々は口々に奇跡だと囁き合った。



「…小癪な真似をするものだ」
「安倍晴明様から頂戴した護符です」
「…」
「やはり、貴方は」



あの時代、陰陽師という奇妙な力を持った輩も台頭していた。
の側へ近づく事は出来ず、まだ力が足りないのだと自覚する。


もっと、もっと。もっとだ。
もっと人を喰わねばならない。
こんな護符など意味をなさぬ位に、
この女とその子を喰らう為に―――――


その後、実弟を喰らい家を継いだ無惨はを捜すも、
屋敷は既にもぬけの殻であり、生涯あの女と相見える事はなかった。


人はすぐに死ぬ。
どこぞでのたれ死んだはずだ。
だけれど。


あの、恐怖に塗れたの顔が未だ脳裏にちらつく、
それだけなのだ。




具現化された虚偽













拍手、ありがとうございました!
第百十弾は初鬼滅の刃より、
鬼舞辻無惨でした!
しかも過去

2019/4/8