やたら居心地の悪いこの部屋はスモーカーが取っていたもので、
彼なりに気を利かせたのか、この界隈に新しく出来た今話題のホテルの一室になる。
高層階の部屋からは街が一瞥出来、
その先に漂う海原に反射する光がひたすら美しかった。


海軍を辞め、もう暫くだ。
二度とスモーカーに会うつもりはなかった。


あの組織とは肌が合わず、大佐にまで上り詰めたが辞めた。
元々向いてはいなかったのだろう。


そもそも、自らが望んで入ったわけでもない。
身寄りのない自身を見出したのはクザンであり、
そんな生活から抜け出したきゃ頑張りなよと、僅かばかりの金とコネを寄越した。


物心ついた頃には既に身についていた能力がその身を助けた。
だから彼もきっと、こちらを許していないだろう。



「…なぁ、
「どうしたの、こんな」



こんな部屋なんてとって。
スモーカーはワインを片手にこちらへ近づき、グラスを寄越した。
乾杯後、彼はボトルのまま煽る。
昔から変わらない様だ。


これまで幾度となく向けられた誘いに乗った理由は只ひとつ。
こんな私を、早急に見限って欲しかったからだ。


海軍を辞め、そのまま悪い誘いに乗った。
目的も何もなく、ヒマだったからだ。


押し付けられた正義には何の魅力も感じられず、もっと即物的なもの。
例えるなら金だとか力、そういったものに惹かれた。


奴らは最初、酷く友好的に見えたし、
裏表のない性質は信用するに値するのだと思えた。
バカな女だ。


の名を囁くスモーカーに視線を向け、音もなく近づく。
こうして同じように抱き合い口付け、
この身を丸裸にした瞬間、この男は気づくはずだ。
この身が完全に汚れてしまった事に。


あの男はを離す気はなく、今か今かとタイミングを見計らっていた。
この身に刻印を刻むその瞬間をじっと息を潜め伺っていたのだ。


指先だけの感覚でそれに気づいたスモーカーははたと我に返り、
お前。そう呟いた。とても小さな声だ。
そうしてその、酷く辛そうな顔。
そんな顔やめてよ、そんな顔見たくないのよ。


それまで一切そんな気は見せなかった赤髪は突如牙を剥き、こちらに襲いかかった。
圧倒的な力量の差、伏した女の腰に刻印を刻む。


これで、お前は俺のモンだ、誰も異論はねェよな。


赤髪が囁いた言葉はいつまでも脳裏から失せてくれず、
すとんと腰を落としたスモーカーを見下ろし、くだらないでしょうと嘯いた。




告げられた終わり





拍手、ありがとうございました!
第百十一弾は久々にスモーカー
超後味悪いね

2019/5/1