俺は炎なんだよと彼は笑った。
散々に叩き伏せられた後でだ。


確かにこちらもろくでもない人種で、
この脆弱な土地を力でねじ伏せていたのだから大差ない。


貧しい村で、財源はない。
一時期七武海であるドフラミンゴが
大規模な工場を作ろうとしていたのだが、それも途中で頓挫した。
希望を失った人々は大半が村を離れ、とりあえずの権利だけを守っていた。


能力者でもあり自身の力を信じていたし、
そもそもこんな僻地を訪れる輩にロクな奴はいない。
生きる目的はなかったが、死ぬ理由もない。只それだけだ。


そんな折、一人の青年が水上バイクで降り立った。
弟を捜していると言う彼は、最初は不躾に、それでいて酷く愛嬌があった。


背中を見てすぐに白ひげ海賊団だという事が分かり、即臨戦態勢に入った。
男は笑いながら、余り気が乗らねェんだが。そう頭をかいた。


結果は火を見るよりも明らかだ。
こちらは確かに井の中の蛙で、男の力量はこちらを遥かに超えていた。


お前、こんなさみしい所で何をしてるんだい。
地に伏し寝転がるこちらの頭上、岩に座ったエースは前述の通り、
俺は炎なんだよと囁いた。


俺は炎だから、何だって燃やせる。
お前の事も、お前の守る大事な何かも、全部ひとつ残らずだ。怖いかい。
エースの指先が陽炎のように鈍く歪んだ。




「…」
「俺の見たところによると、お前は自分の力を半分を出しきれちゃいない」
「力…?」
「お前は一人が向いてねェって事さ」
「…」



俺の親父に会うかいと笑ったエースは、その気になったら連絡をくれよと続けた。
連絡も何も、あんたと会うのは至難の業ねと返せば、
確かにそうだな。そう呟く。
だからそのまま連行された。
こちらの意思などお構いなしだ。


そう。彼はいつだってそうで、自分勝手で、勝手気ままにこちらの心を弄ぶ。
勝手な男だ。出会いも別れも、全ては彼発信。
この心はいつまでも置き座られ、こうしてキャンドルに火を灯し続ける。


俺は炎なんだよ。
エースは確かに、そう言っていた。




切なさが湧き上がる





拍手、ありがとうございました!
第百十五弾はエースでした!
ちょっとアンニュイな感じ…?

2019/7/9