厳勝様、と堰を切ったように吐き出したの駆け寄る足音が聞こえていた。
この声は聞き覚えのある声だ。だけれど名が思い出せない。


駆け寄る足音と共に鞘のぶつかるカチャカチャという音が聞き取れ、
そこでようやく思い出せた。


この娘は幼い頃から私が鍛え上げた剣士であり、
女という性を捨てその身を日の呼吸の剣士という人生に費やした。


女で留めておくには勿体ない程の余りある才覚だ。
皆の反対は相当なものだったが、私の一存で退けた。


にとって私は兄のような、父親のような存在だったに違いない。
彼女は私が全てで、私の言う事ならば何でも聞いた。



「ご無事でしたか、厳勝様」
「…か」
「どこか、御怪我でも」



髪を一つに纏め、裃を小袖に袴といったいで立ちで
紅の一つも引いた事のない娘を心のどこかで哀れと思っていたのだろうか。


程ほどに器量の良い娘だったから特に気になる。
家の女衆も口には出さずとも哀れと思っていたのだろう。


そんな事は、百も承知なのだ。
それでも、私は、継国家の為に、



「厳勝、様」
「…どうした」
「………!!!」
「そのように驚いて」



しゃがみ込み胸の辺りを抑えていた厳勝の背に手を置き、
顔を覗き込んだは息を飲む。
私の顔に何かついているかと囁くも、声を失ってしまったようだ。


やれやれ、まったく。
お前は相変わらず仕様のない娘だ、
私がいないと、



「刃を向けるか、私に」
「鬼に、なられたのですか」
「だとしたら、どうする」



お前は、どうする。
そう問うた時の、あの顔。
涙でぐしゃぐしゃに汚れたあの顔が今でも忘れられない。


それでいて震える刃をこちらへ向けていたの心。
私の教えが骨の髄まで染みついた、あの娘の姿を。




一騎当千の女武者





拍手、ありがとうございました!
第百十六弾は黒死牟(継国厳勝ver)でした!
本誌ネタバレすぎてすまない
鬼になった直後の話

2019/8/5