もしかしての可能性は捨てきれず、
だけれど気づかない振りをしていただけだ。


これまで同期という事もあり、
同じ任務につく事が多かった実弥が急に冷たくなった、
ような気がしているわけだ。


元々そんなに愛想のいい男ではない為、
何がどうとはっきり説明できる状態ではない。
元々そうだと言われれば、そうだったかな、と納得できるような状況ではある。


鍛錬後に実弥の好きなおはぎを差し入れ、
一緒に一息ついたりと、そんな淡い時間はとりあえずなくなったのだし
(まあそれも、忙しいのだと言われればそれで終わる話なのだが)
それこそ同じ任務につく事もなくなったような気がして
(これだってタイミングだと言われればそれまでの話なのだけれど!)
心の奥底がズンと重くなる。


同期は次々に死んでいった。
鬼殺隊というものは基本的に生存率の低い組織だ。
相手が鬼なのだからそれも仕方がない。


実弥はああ見えて酷く情に厚い男だ。それに優しい。
誤解を受けやすい男だからこそ、近くにいて理解出来、
妙な期待を抱くようになった。


恐らく自分は実弥の事が好きなのだろうという事に気づいたのは昨晩の事で、
まあそれも酷く独善的な思いなのだけれど、
このまま好きだという気持ちを伝える事も出来ないまま死ぬのは嫌だ、
だとか、そういう気持ちだ。
悶々と考え余り眠れずに朝を迎えた。


明日朝一番に実弥の元へ向かい思いを伝えよう。
良いも悪いも本人から聞かされなければ諦めもつかない。


いざ尋常に、と実弥の屋敷へ向かって今。
襖の向こうの会話を耳にしてしまい身動きが取れずにいる。


実弥、と声をかけようとしたところで客人が来ている事に気づき息を飲んだ。
実弥の声が聞こえる。


あいつの気持ちには応えてやれねェ。
実弥は続けた。


あいつを泣かせるわけにはいかねェし、あいつには幸せになってもらいてェだろ。
あれは柱にゃなれねェし、だからって俺がずっと守ってやれる保証もねェ。
だったら早めに終わらせた方がいいじゃねェか。傷も浅いからな。


名は告げずとも、恐らくこれは自分の事なのだろうと思え、もう言葉にならない。
動く事も出来ずズルズルと座り込む。
実弥の気持ちはどうなの、だなんて子供みたいに泣いて縋りたいが、
彼の気持ちを考えると出来る道理もない。


だからあんたは優しい男なのよ。
誰よりも優しすぎるのだと呟き、泣いた。




すべてそうやって溶けてゆく





拍手、ありがとうございました!
第百十九弾は実弥でした!
実弥が話をしている相手は、
主人公を心配して顔を出した、しのぶさんです

2019/10/14