あんた鬼を喰ってるの、
と呟いたの眼には畏怖の色が濃く浮かんでいたし、
次に来るのは嫌悪だろうと予想していた。


大概の人間はそうで、最初に驚き恐怖し嫌悪する。
それはもう仕方のない事で、
肉親を鬼に殺された過去を持っているなら尚更だろう。


鬼殺隊員として共に任務へ出かけた時点で
こうなる事は分かっていたのだ。
だからこちらも、うるせェ、だとか何とか、そんな類の言葉を吐いた。


鬼を喰えば力は増す。
感情のコントロールが上手く出来なくなったのはいつ位からだろう。
理性がその力に喰われる。


一人にばれたとなると、話がめぐるのはすぐだろうと腹を括っていたが、
驚いた事にはその事を誰にも言わなかった。



「体調、どうなの」
「!」
「あんたよく蟲柱のとこに行ってるけど」
「診てもらってんだよ」
「消化に悪そうだもんね、鬼」



それどころかあの日以来、顔を合わせれば話しかけてくるようになった。
これは余りにも意外な事態だ。


今日だって散々と蟲柱に絞られ(診察もしてくれたが)
ようやく解放されたところにあらわれた。
何だってこいつは、



「あんた呼吸使えないんでしょ」
「悪りーかよ」
「ちゃんと節度は守んなさいよ」



じゃないと。
そう言い、やっぱり何もないと話を終わらせた
じゃあねと呟き立ち去った。


そんなの奇行(玄弥から見ればだ)の理由が分かったのは次の検診時で、
胡蝶しのぶから相変わらず針で刺すような口撃を受けていた時だ。


そういえば彼女、元気ですか?
急に言われ何の話かと返せば、
あら、いやだ。これって秘密の話だったのでしょーか、
といつもの意地悪そうな顔で微笑む。


あいつは俺の体調を気にして、色々と話を聞きにきているらしい。
いや、あんたそんな話、俺にしちゃマズいんじゃねーの。
当事者に直接言うかね、それ。


何かあったら彼女も悲しむんですよーとか、
いや、そんな。知らねーし。


ようやく解放され蝶屋敷を出た俺はきっと、
いつものように偶然にあいつと顔を合わせる。
成程のタイミングの理由は、いつ知らされるのだろうか。




愛より出でて哀より蒼し





拍手、ありがとうございました!
第百二十弾は玄弥でした!
意識してなかったんですが、
前回実弥で今回玄弥だね…
今回はしのぶさんに台詞がつきました

2019/10/23