天元との思い出は酷く甘く、そうして最上だった。
彼は次世代の頭領として誰からも羨望の眼差しを向けられる
天上人だったのだし、
こちらのような捨て駒のくノ一とは決して交じり合わない人だった。


元は別の流派の残党だ。
現頭領が生き残りの為に残党狩りを行い、
抜け忍としてひっそりと暮らしていたところを襲われた。


如何なる手段を使っても生存率を上げたいという彼の思惑は
当然ながらこちらの自尊心を粉々に打ち砕くもので、
共に捕らえられた仲間は二人が自害、一人は折檻の末に悶死した。


死ぬ事が恐ろしかったは必死に耐え忍び
虎視眈々と逃げ出すタイミングを狙う。
そんな隙は当然産まれず、徐々に諦めを覚えた。


彼は子を生むか腕を上げるかのどちらかを求めた。
早い段階で子を生む事は出来ない事に彼らは気づいていた。


元の流派で求められた役割は褥での暗殺だったからだ。
自らの能力値が高い事も知っていた。
幾度か犯された時の手際で彼らはすぐにその事に気づいたのだ。
故に重宝され今に至る。


頭領とその息子達に嬲られ生まれ持ったこの人生の虚しさを知った。
抜け忍の間に味わった安息の日々は二度と訪れない。


いや、幾度かあった。
天元との時間だ。


頭領は跡取りを増やす為に、息子たちを代わる代わるあてがった。
その中で唯一、こちらの気持ちを汲んでくれたのが天元だったのだ。
彼は力任せに犯さないし、恐らくその行為自体をおかしい事だと認識していた。



「…あいつと俺、どちらがいい」
「……貴方です」
「どうだかな」



彼はある日、姿を消した。
頭領の怒りは相当なもので、探し出し殺せ、決して許すなと怒鳴り散らしていた。


彼が消えた事を知り、も激しく落胆した。
自分は選ばれなかったのだという気持ちと、それも仕方がないという諦めだ。


父親に瓜二つのこの男は私の事を決して離さないだろう。
天元に抱かれる事さえ許せなかった男だ。



「お前は俺を愛しちゃいないだろう」
「…愛など信じてらっしゃるの」
「…」
「そんなものは好きでないわ」



だけれど貴方を愛していると嘯けば
感情的なこの男はじっとりとこちらを見つめ、舌先で唇を舐めるのだ。




だから撃った





拍手、ありがとうございました!
第百二十一弾は天元の弟でした!
そもそも本誌にさえ出てきてねー!
絶対出て来てほしいです

2019/11/04