全身に返り血を浴び、
それが誰の血液なのかを理解するまでまず少しの時間が経過した。
悲鳴は出ず、掠れた呻き声のような音が喉の奥から漏れた。
こんなにも近い距離で止めを刺した事がなかったらしいと気づき、
体内から溢れ出たばかりの血液、それの温かさを今更ながら知る。
恐ろしいと、思った。
血液に冒されると思った。


全身を見知らぬ男の血液に染められ、
思考回路が一気にショートする。
視界さえ赤く染まり、
血液を失う男の咆哮を耳にし―――――
気づけばマルコに支えられていただなんて笑える話だ。


まるで幼い子供をあやすように優しく抱き締め、背を叩く。
大丈夫、大丈夫だよぃ。
その日ばかりは自身が心底嫌になり、誰にも会いたくなくなった。


マルコが何を考えているのかは分かった。
馬鹿な、幼い馬鹿な女だと思っている。
女だと思っているのか、まだ女だとさえ思っていないのか。
その辺りまでは読めないが、
同じ立ち位置としては見ていないのだろうと思った。
それも仕方ない話だ。
血に塗れ動く事さえ出来ないようなヤツを同等とは思えないだろう。


至極自然な流れで前線から遠ざけたマルコは、
後からゆっくり話をしようとだけ言い残し、又戦いへと飲み込まれていった。


船医達は怪我の有無を確認し、まずはシャワーを浴びろと告げた。
震える膝を無理に立たせ、どうにかバスルームへ向かい湯を出す。
流れる湯は見る見る内に赤く染まり、生臭さが全身から漂った。


そこまで大きな戦いではなかった為、一番隊以外の隊は皆、
船から冷やかし半分で様子を伺っていた。
そんな中、これだ。情けないと思った。


シャワーを終え、震えも治まった頃合にマルコはやって来た。
どんな言い訳をするつもりなのかと延々考えていたが、言い訳一つ出て来ない。
だから、こんなあたしを見捨ててくれと言うつもりだった。


「落ち着いたかよぃ」
「…隊長」
「まぁ、よくある話だ。気にするなぃ」
「あの」
「人払いは済んでるよぃ、そこも気にするなぃ」
「あたしを捨てて」


思いつめすぎて必要な言葉を失くしてしまった。
余りにも簡潔な発言にマルコの動きが止まり、暫し見つめ合う。
馬鹿言ってんじゃねぇよぃ。彼はそう言ったが
(そうしてそう言うと分かっていたが)こんな有様で、皆に合わせる顔がない。
どうにもその辺りさえ筒抜けだったらしく、
買い被りすぎなんだよと腹の立つ言葉を頂戴した。



あ 飽きるほど見つめ合った日


拍手、ありがとうございました!
第二十二弾はマルコ(普通)でした。
いや、前回分が余りにもアレだったので、
次くらいはマトモな話を書こうと思って…。
あくまでも、書き手判断ですが。
2010/5/26