純白のドレスはもう要らない



   これは二人だけの秘密ですよ、とクロウリーは言った。の肩に手をかけ、耳側で囁くそうにそう言った。言われたこちらは瞬きさえ忘れ目前の光景から目を離せないでいる。


学園内に暴漢が紛れ込んだ、という一報が入ったのは小一時間程前の事で、最初は皆、スカラビアを狙っての犯行だろうと思っていたらしい。ところがその一報はスカラビアからのものではなかった。


他の寮にしたってサバナクローのレオナやディアソムニアのマレウス等、確かに狙われそうな生徒は他にも山ほどいる。のだが、生憎、暴漢の狙いは他でもないクロウリーその人だった。


丁度、別件で学園長室に呼ばれていたを挟み、暴漢とクロウリーは対峙した。


魔法一つ使えないは完全に足手まといだ。命取りにもなりかねない。下手に動く事も恐ろしく、どうしたものかと考えていれば暴漢は何事かを叫んだ。
仇。
そう言ったように思える。


反射的にクロウリーの方を見た。学園長は僅かに笑っていた。その刹那、倒れ込む音が聞こえ振り返る。全身から血を吹き出した暴漢が倒れ伏している―――――



「…これは、二人だけの秘密ですよ」
「…」
「僕とあなただけの秘密です」
「がくえ」
「クロウリーと」
「…」
「クロウリーと呼んで下さい」



二人きりの時は。
曇り一つない、普段と何ら変わらない口調でそう言う。暴漢から流れる血液が足元に及び爪先を汚していた