愛した夜が明ける



   君は僕が守ってあげるから、とイデアは言った。まだ年端もいかぬ幼い頃の話だ。



産まれた時には既に呪いにかかっていた赤子を人々は忌畏れハデスの元へ献上した。こいつは珍しい赤子だと一目見て気づいたハデスは、その呪いをどうにか解こうと試行錯誤したが、七つ程昔の祖先から引き継いだ曰く付きの呪いだ。そう容易く解ける事はなく、どうにかその身に封じ込めるまでが関の山だったらしい。だからの左半身には赤黒い紋様がまるで痣のように染みついていた。



はそのままシュラウド家に引き取られ、屋敷の地下でひっそりと暮らした。ハデスから託された子という事で待遇はとてもよかったのだが、陽の光に少しでもあたると痣が酷く痛むのだ。だからこっそりと隠れるように暮らした。



イデアは頻繁に地下を訪れ色んな話をした。外の世界を羨むの為に外の世界を感じられるようなVRを作り差し出す。はここから一生出る事は出来ないと思っていた。イデアだってそうだ。



が陽の元に出る事が出来ないのであれば共に暮らせる環境をこちらが拵えればいい。NRCに入学した後も毎晩のように連絡を取っていたし、カメラ越しに会話は弾んだ。



だからだ。だから今、呪いが解けたのだと嬉しそうに報告して来たに笑って返せないでいる。何故、だとかどうして、だとか。これはまるで奇跡なのだと喜ぶ彼女の声に反応が出来ない。



だって、そうしたら君はもう陽の元に出て行ってしまうんでしょう?僕の元から旅立ってしまうんだ。



よかったね、お祝いしないと。伏目がちにそう言いながらばれないように爪を噛む。


もう片方の手では彼女のPCのログを遡っている。これから先、僕がやる事は、誰にも知られてはならない。