俺は二度お前を殺した



   現在、青年実業家として名を馳せているアズール・アーシェングロットの汚い噂を知っている。


マスコミに出ている時の彼はとても美しく聡明な笑顔で万人を魅了し、明快な口調で人々の心を掴む。来年には政界に進出するという話だ。彼の手掛ける事業は多岐に渡る。


『アズール資金』という言葉がダークウェブ界隈を賑わせ始めたのは丁度その頃で、まあ私はその資金を探る魔法執行官です。

ええとね、私の前に5人、死んでるんだよね。
魔法執行官。ヤバいよね。


いや、このアズール・アーシェングロットという男、目下世間を騒がせてるんだけど、こいつの背後にはウツボ商会と呼ばれる何やら正体不明の反社会組織がいるらしいし、ていうかもうコイツの情報を追っても全然正体が掴めないから大体『らしい』で終わっちゃうわけ。絶対悪い事してるのに、その証拠が一切上がらない。そんなの、絶対悪い奴に決まってるでしょ。



「…又、いらっしゃったんですか」
「仕事なんで」
さん、あなた方も大概しつこいですね」
「あの、伺いたいんですけど」
「何です?」



満面の笑みでこちらを見上げるアズールの顔には一点の曇りもない。いつだってそうだ。この男はどんな時もこの笑顔で人々を魅了する。



「昨日、暴漢に襲われたんですよ」
「!」
「随分デカい男だったんですけど」
「大丈夫ですか?」
「あれ、御宅の差し金です?」
「まさか!」
「その男、いや、男達か。そいつらが言うわけ」



背の高い暴漢二人は手練れだった。これまでの仲間達もこいつらに襲われたのだろうと思った。

貴方を殺してもいいんですけど、貴方には利用価値がある、殺すなと言われています。

そう言った男達は一発の弾丸をこの胸にぶち込んだ。強力な呪いのかかった弾丸で、肌に触れた瞬間に全身に呪いが広がる。



「どうしてそんな話を、この僕に?」
「厄介な呪いでさ、術者に服従を示さないと死んじゃうのよ。時間制限もついてる嫌な呪いよね、術者の性格が出てる」
「…」



アズールの前に跪き首を垂れる。
タイムリミットは後5秒。
ふと見上げた我が主の顔は変わらず美しかった。