太陽の墓



   傑の離反後、何となくだが誰もその話を口にする事がなくなった。五条は傑と会ったようだが、あの荒みようを見るにまあそういう事で話を聞く気にはなれなかった。なのでとりあえず最初に接触したらしい硝子に(硝子曰く、接触された、らしいのだが)話を聞く。



傑はいつもの傑で、相変わらず軽薄で最低だったと、誰かに操られているような様子でも、脅されているような感じでもまったくなかったと彼女は言っていた。



そうだろうな、とはこちらも思っていたし、それでも改めてその目で傑を見た人間から様子を聞けば、そうなのか、と落胆した。



傑は疲れていた。心も身体も疲弊していた。呪霊を絶え間なく口にする彼のスタイルは内部から傑を浸食していった。危惧はしていた。防ぐ事は出来なかった。



下らない事ばかり垂れ流す癖に傑は自分の話をしない。五条のように下らない話から思った事まですぐ口に出す方がまだマシだった。



「よーっす」
「五条」
「お見舞いに来てやったんだけど」
「頼んでなくない?」
「コレ、喰っていい?お前も喰うでしょ?」



が傑の事を好きだった事実を誰も知らない。この少ない人間関係の中で色恋を持ち出す勇気もなかったし、毎週末街に遊びに行っている事も知っていた。それに、それが正しいとも思えなかったからだ。案外保守的なんだなと自分でも驚いた。



その程度の恋だと思っていたのに、傑がいなくなってからというもの、この身体はすぐに支障をきたした。バカみたい。そう呟くも身体は思うように動かない。



皆、わざわざ口出しはしない。はっきりとしているのは傑がこうなって食事がまったく取れなくなった私自身の問題だという事だ。自分でどうにかしなければならない。



「ほら、喰えよ」
「いらない」
「喰わなきゃ退院出来ねーんだろ」



五条は週に一回、見舞いに来る。コイツが来ると看護師たちが色めき立つからすぐに分かる。



「吐くから無理だって」
「別にいーよ、吐いたら又喰わせるし」
「よくないんだけど」



見舞いに来る度に食べ物を持参する五条は特に何も言わない。散々と喰った後、残りを置いて帰る。確かにそれを口に運ぶ回数は増えた。



五条がいた窓際の椅子を見れば傑の姿が浮かぶ。傑という存在が消え、初めてここまで心を占めていたのだと知った。きっと、他の皆もそうなんだろう。