これが最後の天国



   外資の大手証券会社から引き抜かれたという噂の彼女を初めて見たのは入社して三年目の事だった。


業績に振り回される日々にうんざりとしていた七海にとって彼女の存在は何の価値もなかったのだけれど(というより正直、雲の上の人間だと思っていた。秒で数億を動かすレベルの女だ)彼女の方からご指名が入ったのだ。


最初は何かの間違いかと思った。
恐らく部署内の誰もが思ったはずだ。


大方の予想通り彼女―――――は別に右腕を探していたわけではなく、私を選んだのは単純なる興味心。初めて顔を合わせた彼女の第一声は『呪術師って何?』だった。



「あなた、噂ほど滅茶苦茶な人じゃないんですね」
「あんたは噂通りの変人ね」



が求めたのは週に一度のディナーミーティング。別に拒否してもいいのよと笑っていたが、場所は都内でも有数の高級店だし支払いは全て彼女持ちだ。たまには美味しいものでも食べてみたいと思った。


話を聞く内に、どうやらの日本滞在は半年程度の事で、すぐに海外へ転勤するらしい。彼女にとってもこの半年はバカンスのような扱いで、だったらご相伴に預かろうと、そう思った。



「本当にそんな…何だっけ、呪、呪霊?っているの?」
「いますよ」
「見えるの?」
「ええ」



最初からは質問ばかりで、それこそ呪霊は見えるのか、だとか、それはどういう形なのか、だとかどうやったら見えるの、だとかもう耳にタコが出来た。どうやったって見えないし、どうしたってそこら辺にいますよ。適当に話を合わせながら最高級の食材で作られたディナーを頂く。



「あなた、戻るらしいですね」
「ヤダ、何で知ってんの」
「噂は早いので」
「さみしくなる?」
「そうですね」
「!」
「何です、その顔」
「意外な事を言うから」
「失礼な」



何の気もない相手と何回もディナーミーティングなんてしませんよ。七海はそう言いグラスに入ったワインを飲み干した。そうして席を立ち、行きますよ、と声をかける。


どこに、そう返せば、最高の夜を差し上げます、私を忘れないように。七海はいつもの顔でそう言うのだ。