夢に現れてわたしを邪魔する



   随分な真似をするじゃない、と目の前の女は言った。確か記憶の片隅に浮かぶ女で、夏油と数回寝た事のある女だ。たかだか数回寝たくらいで記憶に留めるなよと腹の中で笑う。


銀座にある老舗のカウンターバーでグラスを鳴らしとりあえずの乾杯と洒落込む。片隅に浮かぶ程度の女だ、だから余り詳しい素性は分からない。年齢は同じくらいか、少し上か。



「死んだって聞いてたけど」
「そうだよ」
「どういう事なのかしら」
「どう思う?」



この身体は極めて万能で、それこそこちらが求めていた能力の他に個の資質が極めて高い。挙句女にモテる。



「変な事聞いてもいいかな」
「何?傑」
「一度死んで、大事な記憶がなくなってね」
「…」



毎度の如くご相伴に預かろうとする手を握り返した女は、あなたはだあれ?耳側でそう囁く。夏油傑のはずだけど。そう返せば、そうかしら、とじっとこちらを見る。



「傑が私を忘れる訳がないじゃない」
「そうかな、案外軽薄な男かも知れないぜ」
「酷いこと言うのね」



その顔で。



「君の名も思い出せない有様だが」



ひと晩くらい夢を見せてやろうかと、愛した顔で男は言う。思い出にだけ囚われた私は、きっとその手を振りほどけないのだろう。