三秒後には目を伏せて



   酔っていた。あの時、夏油は確かに酔っていたはずだ。普段より口数が増えていたしテンションも高かった。


碌々酒の飲めない五条はチューハイを半分以上残したまま撃沈、どうにかタクシーに押し込み(あのデカい図体を!)大して酔っていない硝子と割と酔いの回っている歌姫が、このバカは寮まで責任を持って連れて帰るわ、と笑ったところまで鮮明に覚えている。


残されたと夏油は清算を済ませ次のタクシーを待つ予定だった。そう。予定ではそうだった、はずだ。


だけれどどこかで二人は間違って、こうして今ホテルの天井を見上げているわけで、これはと夏油どちらが間違ってこうなってしまったのかが問題になる。


少なくともこちらは然程酔っていないし、夏油は酔っていた。硝子達を見送ってすぐに夏油が抱き締めて来た事も、それを冗談交じりに受け入れた事も何もかも全てが間違いだ。


ごめん、ごめんとうわ言のように繰り返す夏油に押し倒されアルコール臭い吐息の中やけに冷静なもう一人の自分は、これを夏油は後悔とするのだろうか、だとか目覚めた後にどんな顔をするのだろうだとかそんな詰まらない事を考えていたのだし、今更被害者面も出来ない。


目覚めた夏油は「えっ?」と言ったきり口元を手で押さえてまさに絶句と言う有様で、流石にこちらも苦笑いだ。昨晩あなたが抱いた女ですけど。そう言えばマジか、と頭を抱えた。



「いや、もう仕方なくない?やっちゃったんだからさ」
「すまない」
「謝るってのも何か違うと思うんだけど」
「まったく記憶がないんだ」
「ありえねー」



そうだろうと思っていたし、そうでなくても大体こういう時はそう言う。無駄に傷つくこの心が間抜けなだけで、やっぱりこうなってしまうんだなとバカみたいに辛くて膝を抱える。


賢明な夏油は自身の口から飛び出た不用意な一言がどういう意味を持つのかに気づいて、じきに何事かを紡ぐ。こんな何の意味もない行為に理由を見つけようとするのだろう。だから私は嘘を吐く。



「飲み過ぎたね、互いに」
「…」
「アルコールのせいだって」



それは違う、と言い出す夏油をじっと見つれば小さな声で「私はこうなりたいと思っていた」みたいな事を言いだすものだから、ちょっと勘弁してよまだ酔ってるの?そう笑い話を逸らす。


こんなに間違いだらけの夜に愛の告白なんて似合わない。冗談じゃないんだ、と言う夏油の隣、素っ裸の身体をシーツで隠した私をどうしようというのだろう。