マリオネット・プリズン



   やあ久しぶり、といつものように声をかけてくる五条が嫌いだ。こちらの気持ちを知っている癖にこうして変わらぬ素振りをするところも、そもそも過ちスタートなのに飽きず関係を切らないところも、それでいて誘うのは彼の方からでからの連絡には一切応じないところも全てが嫌いだ。


だけれど一番嫌いなのはそんな五条を嫌いになる事が出来ない自分自身だ。顔を見る度に腹が立つのにこうしてのこのこと足を運んでしまう。


今回も五条の方から近くに行く用事が出来たから、と連絡が来た。五条からの誘いは大体それだ。任務の序でに顔を出す。


五条としては夕飯を一人で食べたくない、だとか夜一人で眠りたくない、だとかその程度の事情なんだろう。そんな事もこちらは了承済みだ。


下手をしたら最悪、●●(住んでる地名を入れてね!)の女として認知されている可能性さえある。


五条を好きな気持ち以外に得られるものといえば、五条持ちで食べる事の出来る高いご飯とセックスくらいだ。


だけれどその間は五条を独り占め出来るわけで、その付加価値の為だけにどんな思いを抱いても会っているのだ。我ながらバカな真似をしていると思う。



「機嫌悪いじゃーん、どったの」
「その目隠ししといて」
「何で?僕のこの目、大好きでしょ」
「今日はヤダ、嫌い」



五条が誰かと付き合う気がない事は知っているし、誰とでもこんな真似をしている事も知っている。この男の一日は借り切る事が出来ない。貸し出して半日だ。



「…何?…どしたの」



五条だってきっと分かっているはずだ。分かっているのにこうして背後からどうしたの、なんて白々しい言葉を吐き出しながら抱き締めて来る。


僅かな時間なのだから大事にしたい、楽しみたい。こんな男から早く手を引きたい。人並みの幸せを手に入れたい。それなのに、



「僕の事嫌いになっちゃった?」
「思ってもない事言わないでよ…」
「まーね」
「嫌われるなんて思ってもない癖に」
「だってそうでしょ」



五条と壁の間に挟まれ身動きが取れない。背を曲げこちらの顔を覗き込む五条は目隠しをずらしあの眼でこちらを捉える。ああ、駄目だ。その目で見られるともう私は身動きが取れなくなる。