嫌になるほどの着信を全て無視した理由は、
あの男がしこたま酔っ払っているからだ。
酒に飲まれた時くらいにしか連絡を寄越さないと知っている。
そもそも時間も夜更け過ぎなわけで、
丁度金曜から土曜に曜日が移行した後辺りから
携帯電話が活発に動き始めた。
明日は一人で映画にでも出かけようと思っている矢先だ。


液晶画面に『マルコ』の文字を確認してから、ずっとマナーモードにしている。
それにしても、ここまで出ないのだから
出る事が出来ない状態にいると思えばいいのに、どうして執拗にかけてくるのか。
きっと、用件はないのだ。
用件があるとしたらメールなり何なり、他にやり方があるだろう。
だからマナーモードにした携帯を床に放り投げ、
ベッドに横たわったまま天井を見つめていた。









充電が後、一つになってしまった辺りで店を出た。
丁度今、近くで飲んでいるからお前も来いよという旨の電話だ。
それなのに、彼女はちっとも出やしないし、
一緒に飲んでいたサッチ達からは無視されてるんじゃないのか、
だとか詰まらない事を言われるし、でいよいよ店を出たわけだ。


火照った顔が夜の風に冷やされ、少しだけ酔いが醒めるが、
せめてもう少しだけはこの状態でいさせてくれと思う。
繁華街のすぐ側に一人で住んでいる彼女は、部屋にいるだろう。
男と一緒に、そんな可能性も考えるが、酔いに任せ歩みは止めない。
何かの打ち上げだろうか、通りの居酒屋の外で学生達が大勢騒いでいた。


その横を抜け、もう一度電話をかけてみる。やはり出ない。
アパートの下に辿りついた。二階の一番奥がの部屋だ。
一度だけ見上げ、ゆっくりと階段をのぼり始める。
こんな夜更けに、酒に飲まれた知人が部屋を訪れたとして、
が部屋に上げるのかという話だ。
普通なら上げないし、これまでも上がった事はない。


インターフォンを押す。出てこない。電話をかける。出ない。
もう一度、インターフォンを押した。


「…何?」
「…よぅ」
「こんな時間に何よ、マルコ」


チェーンロック越しに不機嫌そうなの顔が見え、思わず笑んだ。


「トイレ、貸してくれぃ」
「は?」
「さっさとしねぇと、ここで吐くよぃ」
「ちょっと!」


こんなやり口にひっかかるんじゃねぇと思いながらも、
目の前の女がこちらを信用しているからこそ
ドアを開けるのだろうと、それも分かっていた。
がチェーンロックを外している間に、男物の靴がないかを確認。
急かす彼女を横目に、次はどんな手を使おうか、そればかりを考えていた。



連続してゆく想いが重い


拍手、ありがとうございました!
第二十五弾はマルコ(しかも現代パラレル)でした。
何て分かりやすいやり方で攻めるんだマルコ…
しかし、マルコは現代パラレル率が高い。
2010/6/15