目覚めれば当たり前のように一人の部屋が広がっており、
昨晩の感触を思い出すように指先で唇を触った。
乾き冷えた唇には何の感触もなく、
昨晩の出来事が現実なのかどうかも分からない。
まぁ、それでも身体は酷くだるいのだ。現実だったのだろう。


あの男は手荒い為、腹部に重い疲れが溜まっている。
優しく抱けと言うつもりはないが、少しはこちらの身体も気遣えと思う。
第三者が確実に存在していたこの部屋は散らかっており、
これから始まる一日を億劫な気持ちで迎えさせるのだ。


「…」


決して鍵のかけられないこの部屋は湿気に満ち、
冷えたコンクリートの質感ばかりが気持ちを滅入らせる。
冷えはより一層、温かみなどどこにもない。
唇が離れても離れなくても温もりを渡さないあの男によく似ている。


「邪魔するぜ」
「ご自由に」


服さえ纏わず、乳房を曝け出す女を目の当たりにしても
ドフラミンゴは何も言わず、まるで風景のように受け入れている。
そんな光景もお馴染みで、ようやく目が覚めたと呟けば男が哂った。


「あいつの懐には入れそうか?なぁ、おい…
「まだ分からないけど、無理よ。きっと」
「何だよ、随分消極的じゃねぇか」


こんな男に飼われている自分自身はロクデナシだろうか。
冷え行くこの部屋で目覚めるたびに、
情のようなものが湧いている事に気づき、必死に打ち消す。
この身体は誰でも受け入れ、心は何者にも冒されない。
この部屋と同じだ。


ドフラミンゴの思惑は、クロコダイルの思惑と又違い、
こちらの使い方も両者分かれる。
冷えた肌があわ立ち、
シーツで隠せばドフラミンゴの腕が乳房を掴んだ。
一瞬、息を止めそのまま視線を向ける。


「ミイラ取りがミイラになっちまったわけじゃねぇだろうな」
「何よ、それ」
「役割だけは忘れるんじゃねぇぜ。俺がお前を生かす理由だ」
「知ってる」
「それさえ理解してりゃあ、
お前は俺の可愛いお人形さんとして、
この先ずっと悠々自適に生きていけるんだ」


ドフラミンゴの言葉が壁に染み、又一段と室内の温度が下がったようだ。
勝手にドアを開き侵入してくるこの男がこの部屋の持ち主で、
住まわされた自分は飾りだと、知っていた。



な 涙の枯れぬ日々の真似事をして過ごす


拍手、ありがとうございました!
第二十九弾はクロコダイルとドフラミンゴでした。
まあ、クロコは…名ばかりですが。
暗いなあ。
2010/7/2