昔、それこそ自分がガキの頃に見た夢のようだと思っていた。
夜空には星が煌き蠢き、一転、
視線を足元に落とせばつい先刻までの戦いが色濃く残っている。
血溜まりと肉片、死体。
潮の匂いに混ざった血液の臭いが生臭さを増している。


視線を少し上げれば、がつま先で死体を持ち上げている光景が目に入る。
最初こそ驚いたが、どうやらは探しものをしているらしい。
生き別れた兄を捜しているらしいが、
このクソ広い海の中で捜し人なんてそうそう見つからないだろう。


の旅、それの目的は捜し人を見つける事で、
目的を果たせばは船を降りるだろうか。
ふと、そんな疑問を抱いてしまった。


「今回も、無駄足だったみたい」
「そうか」
「あたし、殺すのは好きじゃないのよね」
「俺ァ存外、嫌いじゃねぇが」
「でしょうね。あんた、笑ってるもの」


斬る寸前の顔が笑っていると指摘されたのは初めてで、
そんな所まで見ているのかと驚いた記憶がある。
そんな余裕がよくあるものだと言えば、
あたしに斬りかかって来た時も笑っていたと返され、
それは違うんだと思ったが口にはしなかった。


それは俺が単純に嬉しかっただけで、だとか。
詰まらない事を口にしてしまいそうだったから。


「シャワーでも浴びようぜ、
「一人で浴びてよ」
「何だよ、いいじゃねぇか」
「狭いのよ」


片時も離したくなくて、ずっと一緒にいたくて。
だから斬りかかり仲間にし、こうやって船に乗せている。
捜し人の話を耳にし、見つかればいいな、なんて一応口にしたものの、
その実、絶対に見つける事は出来ないと知っていた。


その男なら随分昔に殺している。他意も悪意もない、互いに海賊だからだ。
この海の上で行われる殺戮には意味も理由も必要がない。
弱いから負けただけだ。


それなのに、こんな事実を告げる事が出来ないでいる。
一緒にシャワーを浴びる事が出来なくなるのが怖くて。
何て言い訳は通用しないだろうが。


「キャプテーン…、嫌がってるよー?」
「口を挟むな、ベポ」
「狭いから嫌だって言ってるでしょ!」


この普遍なき生活は何人にも邪魔させない。絶対にだ。
の細い背に血塗れの腕を回し、今夜の予定を囁けば、
彼女が嫌そうに溜息を吐き出す。
そんな事を一々、口に出すなと小言を言う。
そう、これが幸せな人生。
振り返った先にはベポ達がいて、バスルームへ消える二人を見守る。
だから、これが幸せな人生なのだ。



ゆ ゆううつな指先が真実を隠していたらしい


拍手、ありがとうございました!
第三十弾はスゲエ久々なローでした。
こういう事、なくはないと思うんですが、
・・・言えないよね・・・
2010/7/13