珍しい男が顔を見せたものだと呟き、存外嬉しい胸中を隠す。
口先では面倒だと言いながらも、きっと唇の端にしろ、
笑みが零れないよう必死に隠しているのだ。
だから、一度だけこちらを眺めたマルコは呆れたように笑ったのだろう。


いそいそとグラスに氷を入れ、マルコの好きなレモンティーを淹れる。
蜂蜜漬けのレモンスライスを一枚。
別に常備しているわけではないと言いながら、迅速に容易の出来る自分は何なのか。


ソファーに深く腰掛けたマルコは、ばたつくを笑いながら眺めている。
この部屋に足を運んだのはいつ振りだろうか。
ざっと見回し、変わった所があるのか見てみたが、
そういえば以前の配置なんて一つも覚えちゃいない事に気づきやめた。
馬鹿な真似だ。


そもそも、の人生に足を踏み入れないよう、
細心の注意を払いながらこれまでやって来たのだ。
死んだ仲間の残したの人生を何よりも重宝して。
娘と一緒に暮らすという夢の途中で死んだアイツの気持ちを汲み、
残した金を定期的に送った。


成人したという手紙が来た時には随分驚いたものだ。
は父親が死んでいた事を知っていた。


「少しは落ち着けよぃ」
「落ち着いてるけど」
「そうかよぃ」


一度だけでいいから顔を見たいというの要望を受け、
半年ほど悩んだが会いに出かけた。
は父親が海賊だと知っていたが、
マルコはマルコで父親の生き方のせいで
がどんな仕打ちを受けたのかを知っていた。


は海賊を憎んではいないのだろうか。
ふとそう思ったが、憎まれ役の方がまだ気は楽だ。
そう思い、足を運んだ。


「いいから、座れ。今日はお前に大事な話があるんだよぃ」
「話?」
「あぁ」


チラリと横目で眺めた雑誌の束の中に、
新しい日付の新聞がある事に気づいていた。
まあ、も子供ではないのだ。
ある程度の世論は把握しているはずだし、
自分が顔を出した理由にも薄々気づいているはずだ。


「俺ァもう―――――」
「この部屋に全部置いていこうだなんて思わないでよね」
「!」
「戻って来てよ、マルコ」


あたしをこんな部屋に閉じ込めないでと呟いたは、すぐに立ち上がり背を向けた。
こんな時に何だが、笑ってくれよと投げかければ、
は頷きながらもまだ振り向かないもので、
ゆっくりと立ち上がり、近づいた。


背後から抱き締めれば、
そういえば二の句一つ思い浮かばない事に気づき、動けなくなった。


て 手を優しく結び合った日


拍手、ありがとうございました!
第三十二弾はマルコです。
新ジャンル、足長マルコです(盛大に)

2010/7/22