もう、どうにも動く事が出来ない事実に、うっかり気づいてしまったわけだ。
キッドとローの間に挟まってブラブラと漂っていた時間は酷く有意義で、
それなのにまったく得るものはなかった。心地よさくらいだ。


一歩を踏み出し、どちらかを選ぶべきだったのだろうが、
どうにもその二択には無理が生じていたようで、
日に日に歪みは大きくなっていく。


ローにより壁に押し付けられた記憶も、
キッドにより強く抱き締められた記憶も全てが新しい。
昔、まだ色んな経験がなかった頃の自分が見たら愕然とするだろうか。
若しくは嘆き悲しんでしまうかも知れない。


「おい、いいのか?」
「一々、聞かないで」
「その言い方は何だよぃ、
「察してよ、マルコ」
「面倒くせェ女」


昔馴染みの不死鳥を辿り、ほうほうの体で逃げ出したはいいものの、
これから先の道がまったく見えない。
それでも、あの場所には二度と戻れないのだろうし、
そもそもがあんな顔なんて見たくなかったのだ。
あんな、今にも泣き出しそうな悲しみに溢れた顔。
どちらを選んでも結果は同じで、だったら逃げ出す他ないじゃない。


「ねェ、あたしって面倒くさい?」
「あァ」
「そんな事ないって言ってよ」
「俺ァ嘘だけは吐けねェんだよぃ」
「嘘ばっか」
「なァ、どうして俺の所に来たんだ」
「マルコに会いたかったからに決まってるでしょう?ほら、昔っからあたし、マルコの事、愛しちゃってるし」
「…お前こそ」


嘘吐け。どんな嘘だよぃ、そりゃあ。
呆れたようにそう言うマルコを見ながら、勝手な真似を振り返る。


散々喰い散らかし、投げ出し、逃げ出した。
忘れてしまえと言わんばかりにだ。
こんなあたしの事なんてさっさと忘れてしまえばいい。


それなのに、自分に対してだけの安全策を取った。
マルコの側にいる選択を。
まるで怠惰な夢から醒めた自身は空洞と同じで、
元より何もないのだから減りもしないはずだ。
急に心細くなり、マルコの腕を取れば、甘えるのは止せと一蹴された。




も もう忘れていいね


拍手、ありがとうございました!
第三十六弾は、マルコでした。
最近のマイブーム↓
キッドとローに+α。

2010/8/25