「確かに、嫌気はさしてたけど」
「…、それを、こちらへ持て」
「疲れてもいたけどさぁ」


これはないわと呟いたは、まるで楽園のような光景に溜息を漏らす。
空の上に浮かんだこの島を訪れたのは、何も自身の希望ではなかったわけだ。
昨日までは彼が言う所の『青海』で普遍なき生活を送っていたというのに。
何故、こんな事になった。


それこそ目前にいる十年来の知り合いは神様の真似事をしているのだし、
何故だかここではそれが完全に受け入れられている。


「どうして、あたしがあそこにいるって分かったのよ」
「何を言う。私は神だぞ。分からぬ事などない」
「いいから、そういうのいいから」


心が読めるのはお互い様だ。そんなものは珍しくない。
只、日常生活を送るには些か問題がある為、あえて隠している状態だ。
皆、勝手に心を読まれる事を嫌がる。まあ、当然だ。
そうして薄気味悪いと切り捨てられる。
だからひた隠しにしてきた。


「こんなとこで、性懲りもなく繰り返してるのね」
「…」
「故郷を壊しただけじゃ、足りないの?」


彼は昔からこうで、昔から他者を見下す癖があった。
産まれもって、自分は選ばれた人間であると自負していた。
後々、『青海』で暮らし始め、恐らくエネルは
何かしらの能力者なのだろうという結論に落ち着いたのだが、
あの頃は本当に選ばれた人なのだろうと思っていたのだ。馬鹿げている。


「あたしがあんたを憎んでないとでも思ってたの?エネル」
「神を憎むわけがなかろう」
「あんたは、あたしの親も兄弟も、恋人も。みんな殺したのよ」
「神罰が下ったまでだ」
「もう、何も奪えないわよ、あたしからは」


嘘だ。又、奪われたばかりだ。
新しい、小さいながらも幸せな生活を。
目前に悠々と座る、大きな掌を持つ男は何もかもを奪っていく。
あの頃とは違い、エネルも幾ばくか歳を重ねたはずだ。変わっただろうか。


「…」


彼が口を開くまでの数秒で心拍数が跳ね上がる。
思い通りにならず、外堀から埋めていったエネルに対し、
過去の自分はそれでも従わなかった。
失ったものは余りにも多く、得たものは余りにも少ない。


「…嘘を吐くな。未だ残っている」
「…」
「お前が、未だ残っているだろう」


事も無げにそう言ったエネルは、
詰まらなさそうな眼差しをこちらへ向けている。
こちらばかりは大人になってしまった。
諦めが顔を出し始め、昔ほどの拒否反応が湧き上がらないと思いながら、
又汚されゆく未来を受け入れるしかない。


ゆ 優劣を定めるただひとつの呪詛


拍手、ありがとうございました!
第四十五弾はエネル(久々)でした。
私が書く、エネルの過去はどこから派生したのか。
まあ、完全に妄想という名の嘘なんですけど。

2010/9/28