殺戮武人だなんて格好いい通り名じゃない。
軽口を叩くの言葉に大した理由はない。
迷惑な呼び名だと答えたキラーは、
ノリが悪いだなんて喚いているの口車には乗らず、淡々と酒を飲んだ。


味なんかハナからしていないのだ。
この女が隣にいる時点で、心の置き場はすっかりなくなっている。
落ち着けない女だ。心が酷くざわめく。
その理由は、まだ分からない振りをしている。


こんな場面をキッドにでも見られたら、あの男は激昂し近辺が焼け野原になるだろう。
とキッドは酷く仲が悪い。キッドが一方的にを嫌っている状態で、
は笑いながら(まあ、こんな女だ)ちょっかいをかけるもので、
故に面倒は大きくなる。


「…昨日の騒動、聞いたぞ」
「ええ?何の話?」
「とぼけるな。お前、海軍とやりあったろ」
「覚えてないんだけど」
「一面に載ってたぞ」


今朝方、キッドの機嫌が異常に悪く、
自分を含め皆が何事かと焦っていれば、朝刊が目に入った。
一面を彩るのはのパフォーマンス過多な写真であり、なるほどと納得した。


「嫁の貰い手はなくなったな」
「余計なお世話なんですけど」
「気の毒に」
「笑ってんじゃないわよ、キラー」


徐々に酔いが回り始め、昔の事が頭の中から弾けてくる。
お前が側にいてくれれば俺はそれだけでいいよと口走った過去。
お相手はこの女。行かないでくれと縋った過去。笑えない。


「あんたのとこのアレ、そろそろ来るんじゃないの」
「キッドの事か」
「そうよ、アレ。赤いアレ」
「そんな言い方をするなよ」
「だって。面白いじゃない」
「…まぁな」


散々遊びつくしたキッドは、そろそろ姿を見せるだろう。
そうして、隣に座るの姿を目の当たりにし、
機嫌が悪くなり騒動が勃発する。間違いない。
大した予想ではないが、これは外れない。
お前は本当に女の趣味が悪いだとか、あんな奴の一体どこがいいんだとか、
堂々巡りの応酬が始まるだけ。が聞かなければそれだけいい。


殺戮武人だなんて呼び名は、確かにあの頃の自分だったら喜んでいたと思う。
だからこの女は今更、そんな事を蒸し返し、隣で笑っている。
たった二人でいられれば他には何もいらないだなんて、
そんなものは戯言なんだと分かったはずだ。
キッドとが相容れない事も分かっている。それでも。


「…テメエ、何してやがる」
「何って…キラーと飲んでるんだけど?何よ」
「行くぞ、キラー」
「キラーはあたしと飲んでるのよ」


どちらも側にいて欲しいだなんて、それは我侭なのだろうか。
どちらも大事なんだと思う心は欲深いのか。
グラスを傾けながらそんな事を考えている間にも、
背後では大きな音をたてながら二人が店を破壊しているもので、
何だか面倒臭くなってしまったキラーは、
顔色を変え怯えているマスターに、
同じものをくれないか、振り返りすらせず注文をしていた。


夢でした


拍手、ありがとうございました!
第四十六弾はキラーでした。
キッドにしろキラーにしろ、
絶対に絡ませなければならないのか私は。

2010/9/28