「…いい加減に諦めたらどうだ」
「嫌よ」
「俺の美意識に反するんだよ。もうお前に血を流させたくはない」
「どうしたのよ。今日は、雄弁じゃない」


目前の彼女は膝をつき、こちらを見上げている。
誰もここにはいない。とルッチ以外には誰もいない。
頭上では半壊したマリア像が事も無げにこちらを見下ろしている。


たった一人の女を追い詰める理由が私情だなんて、口が裂けても言えはしない。
建前では粛清の皮を被り、胸中の情をどうにか落ち着かせようともがいている。
こんな女一人のせいで、心がざわめくのは許せないのだ。


目前のには抵抗する力なんて残っていない。
小刻みに、しかし確実に削り追い詰めた。
生きたまま連行して来いという命もあったし、それこそ美学だ。
の肌に傷をつけたくないだとか、血を垂れ流させたくないだとか。
そんな、つまらない気持ち。


震える指先がトリガーを引く事も出来ないでいる。
無駄に抵抗をするからだ。


「あたしが一体、何をしたってのよ…」
「…」
「必死に生きてるだけじゃない」


意思の強い眼差しがこちらを見つめ、口元が僅かに綻んだ。
こんな時でさえも笑みを讃えるは強く、そうして聡明だ。
故に欲す。
あぁ、そうだ。俺は。俺はこいつが欲しいだけなんだ。


心なんて決して通わないと知っていて尚、諦めきれず追い詰めた。
手に取れば何か変わるだろうか。
余り感じた例の無い、愛しいだとか、恋しいだとか。
欲情以外の気持ちは芽生えるだろうか。


小さく一歩を踏み出せば、腹を括った彼女が目を閉じた。
髪についた砂埃をゆっくりと払えば次に繋げる言葉が見つからず、ふと思う。
追い詰めまでして、


(ぼくが手に入れたのは)


拍手、ありがとうございました!
第四十九弾はルッチでした。
CP9が私のウィークポイントなわけですよ。
ルッチとかほとんど書いてないんだよなあ…。
故に、このような、わけの分からない代物に!!
今回ばかりは土下座で謝り倒したい所存です。

2010/10/11