そんな生き方なんてやめろと、
吐き捨てるでもなく、真摯にでもなく、
まるで日常会話のようにさらりと言いのけたあの男を忘れる事が出来ず、
こうして今日も生きている。
能力者としての生き方を捨て、
引く手数多な諸先輩方からも逃げ、こうしてひっそりと生きている。


スモーカーが海軍に入る数日前に、彼はたったそれだけの言葉を渡しに来た。
攻撃性の高い能力に甘んじていたは、
それこそ各方面からお誘いを受けており、
一番条件のいい所に向かう直前だった。


昔から我が強く、好き勝手に生きていたもので、
すっかり両親からは見放され
(というか、彼らの方が先にこちらを捨てたのだけれど)
悪友ばかりが増えていった。
誰かと生きていきたいわけではなかったが、
このまま一人で生きていても厄介ごとばかりが寄って来るだけだとも知っていたし
(兎角、力がどうあれ、女は生き難い世界なのだ)
未だ見ぬ海の向こう側へ行きたいという気持ちもあったからだ。


それなのにスモーカーは唐突に姿を現し、
そんな生き方なんてやめろと事も無げに言いのけた。


「…よぉ」
「会いに来てくれたの?」
「又、騒動を起こしたらしいじゃねェか」
「いい迷惑なのよ、あたしは」


突如、話を蹴り、姿を眩ましたを海賊達は血眼で捜した。
約束を反故にした代償は大きかったわけだ。
必死に追ってから逃げ、姿を隠したままひっそりと生きる。
何れ、そんな静けさは消え去るのだろうと知りながらも。
そうしての存在は日ごと明るみに出て、今に至る。


「いいから諦めて、海軍に入れ」
「嫌よ。面倒臭い」
「俺の元につけよ」
「何よ、それ。あんたの下につけば、慰めてくれるの?」
「そりゃ、ねェ。却下だ」
「相変わらずケチな男ね」
「お前が図々しいだけだ」


僅かに負傷した指先をスモーカーは見つめている。
人差し指の爪が割れているのだ。
目線を追えば、彼は指先にそっと触れるもので、
高鳴る胸が知られないよう、さり気なく唇を結んだ。


割れた爪の先から溢れる思い


拍手、ありがとうございました!
第五十弾はスモーカーでした。
どちらかといえば明るい…?
焦がれ主人公です。

2010/10/11