止まない雨はないと、果たして誰が言ったのだろうか。
その言葉を疑わずにはいられないほど威勢よく雨は降り続いているわけで、
嵐を懸念した白ひげ海賊団は近場の島に停泊していた。


大きな波のせいで船は激しく揺れ、とてもじゃないが眠る事も出来ず、
島に降りたのが昨日の出来事だ。
ずぶ濡れの体で部屋を貸してくれと顔を出した海賊達相手に、
宿主は言葉一つ渡さず、鍵を投げつけた。
金は欲しいが海賊は嫌いだという事だ。
だからといって、誰かに好かれる為に生きているわけではないのだから、
床に落ちた鍵を拾い上げ、部屋へ向かった。


古い部屋には雨音が鳴り響いている。
曇った窓ガラスから雨空を見上げれば、
分厚い雲が延々と続いており、
やはり雨は止まないのではないかと思えた。


「…何、見てんだよ」
「空」
「灰色が広がってるだけだろ」
「あんたが来るかなって思って」
「何だよ、それ」


苦笑いを浮かべたサッチは、ゆっくりとドアを閉めた。
こうしての部屋を訪れるなんて何年振りだろう。
これまでは意図的に避けていた。
ある程度生きていれば、何だかんだと過去が積み重なるもので、
この彼女とだってそうだ。過去が重なりすぎて、近づけなくなっていた。
自分のせいだとは知っていた。


「あんたは雨の日にしか会いに来ないでしょ」
「いつの話だよ」
「昔っから」


同じ船に乗っている癖に、と二人で言葉を交わす事はない。
だから、こちらが意図的に避けているからだ。
その事にはきっと気づいている。
思い出一つ消せないでいるから、こんな事態を招いてしまった。
いつだって、側にいたい癖に。


「早く雨が止まないと、海に戻れないじゃない」
「そんなに海が好きかよ」
「だって、海賊だもの」
「そりゃ、そうだ。俺も好きだ」
「あたしが?」


海が、と言いてェとこだが。
サッチはそう言い、いつもの泣きそうな笑顔を見せる。
仲間の枠に収まろうと、心を殺し距離を伸ばし、
どうにかこれまでやって来た。船の上では。
だけれど外は酷い嵐だし、ここは古い宿の一室だ。
これまで膨らませた焦がれる気持ちを少しだけでも見せ付ければ、
は気づいてくれるのだろうか。
無理をして誰かと仲良く過ごすを見つめている自身に気づいてくれるのか。
の瞳がサッチを捉えた。雨音は依然、鳴り響いていた。


失うほうが痛かったから


拍手、ありがとうございました!
第五十一弾はサッチ(初!)でした。
エースやらマルコやらとは
頻繁に絡ませまくるんですけど、ピンは初。
いかがだろうか。


2010/10/20