あんな二本の足で何がどう出来るわけでもないというのに、
目前にいた女は必死の体で逃げ出した。
どこに行っただとか、何を考えているだとか。
そんな事は容易に分かる。あの女の心を読めばいい。


生き物というカテゴリの中で対峙すれば単なる神と人になり、
こうして顔を合わせる展開は望めなかった。
どうしてこの女は神を崇めないのだろうと不思議に思っていた所だ。
人々は恐れを抱き、それに平伏す。それが当たり前の光景だ。
途方も無い力を目の当たりにした彼らが恐れ羨む、それが当然の展開だった。


「…やれやれ」


手間のかかる女だと一人言ち、すっかり姿の見えなくなったを追う。
距離ばかりを伸ばそうとも、意味がないと分かっているはずなのに。
果たしてあの女はどこまで逃げるつもりなのだろうか。
こんな、空の上で。


「…!!」
「その先は危険だぞ」
「っ!!」


その先に道はないからな。
空を切り、青海に転げ落ちかけたの腕を掴み、
下らない戯れに終止符を打つ。
どちらに驚いたのかは分からないが、
息を飲み込んだ彼女の顔をぼんやりと見下ろし、
眼差しの方向を見つめる。


「離して」
「手を離せばお前は死ぬぞ」
「離さなくても、死ぬでしょう」
「…面白い女だな」


こんな空の上で、どこにも逃げる事が出来ないと知りながら、
へたり込んだ彼女は、笑いもせずにそう吐き出したエネルを見送る。
ひたりひたりと雲の上を歩く彼は、来ないのかと事も無げに問いかけ、
やはり答える事も出来ないは、その場から動けないでいた。


神さまのきまぐれ


拍手、ありがとうございました!
第五十四弾はエネルでした。
只々、暗いだけの話に…。


2010/11/3