もう帰るのと抑揚無く呟いた彼女は、気だるそうに髪をかきあげていた。
眠りから醒めた瞬間に彼女の気配を感じず、又眠らなかったのかと思った。


この女の暮らしぶりが手に取るように分かる。
自分が帰ったらまず、タバコに火をつけ、情事自体を忘れようとする。
安い酒と一緒に。
下着のまま冷えたベッドに腰掛け、
お世辞にもいいとはいえない景色を濁った窓越しに眺め、
そうして沈黙に彩られた室内に溶けてゆくのだろう。


何で又、そんな女になってしまったのかと可哀想にも思うが、全てを引き受ける気もない。
だから下手に口は開かない方が得策だ。
はこの世界で一人なのだと実感している。
隣にシャンクスがいようと、いなくとも。


そんな女の心の傷になんて触れたくもないし、
何となく理由の分からない欲求を満たしたいだけだ。
こんな女だと分かっているのに、何故交わしたくなるのか。


「…どこに行くのか、聞かねェのか?」
「聞いても意味はないでしょう」
「冷てェな」


そんな、他愛も無い会話をしながら服を着る。
淋しい女を一人、置き去りにして。
とっくに海を捨てた女だ。だから、これ以上距離が縮まる事も無い。


「…シャンクス」
「何だ?」
「そんなに海が好きなの」
「…あぁ」
「あんたがどれだけ愛しても、海にとっちゃ取るに足らない事象よ」
「知ってるさ」
「…」
「手に入らねェから、尚更いいんじゃねェか」


何の気なしにそう言えば、少しだけ間を置いた彼女は馬鹿ね、と言葉少なめに呟いた。
ふと視線を向ける。
珍しく膝を抱えたが見え、性急に抱き締めたくなったが、


分かり合えないと嘆く舌


がそれを引きとめた。




拍手、ありがとうございました!
第五十七弾はシャンクス(暗い)でした。
海に恋する男は性質が悪い。



2010/11/14