愛してるだなんて言葉は信じる価値がないと思っていた。
理由だってあるのだ。
愛された事も無く、愛した事もない。だから価値が無い。
こうやって目の前でじっとこちらを見つめるにしたって同じだ。


この女が俗にいう愛をどう思っているのかは分からないが、
どうやらこちらを愛しているらしい。
信じる事は到底出来ず、だから気づかない振りをした。
心だけがポツリと取り残され、その周りを色んな景色が踊る。


の情報にしたってそうだ。
よく笑う、だとか甘いものはそんなに好きでない、だとか。
ちょっとした会話の端に出てくるそんな情報を意外と覚えているのだと、
意外に思った。


「…何なのよ」
「だってお前、俺の事が好きだったろ」
「いつの話よ。ていうか、よく言えたわね」
「そうじゃねェか。図星ってヤツだ」
「忘れて」


そうして、随分時間が経過したものだ。
今更、彼女の心を抱きたいと強く感じた理由こそ分からないが、
思ってしまった以上、行動には即効で移す。
の眼差しは到底愛を宿してはいないが、きっとじきに変わる。
心なんて容易く変わるものだからだ。自分以外の、心なんてものは。


「ずっと前に、キスしたろ」
「あんなの、キスの内に入らない」
「あァ」
「あんたは、酷い男よ。エース」


自分を愛している女に、挨拶程度の口付けをした。すぐに忘れた。
が忘れられなくなると知って口づけた。それは忘れなかった。
すっかり姿を失くした彼女の中の愛を、この一晩で蘇らせる事が出来るだろうか。
まあ、仮に蘇ったところで次の手は考えておらず、
この一晩もきっと、ろくでもない思い出に変わる。


嘘でなかった真実


拍手、ありがとうございました!
第六十弾は最低なエースでした。
久々に書いたなあ。最低エース。

2010/11/28